本格的にキャッチャーを始めたのは、高校1年の夏。強肩を武器に、甲子園の初戦では相手の盗塁をすべて刺すなど、加藤匠馬の野球人生は順風満帆だった。しかし、大学最後のシーズンはスタメンから外され、初めて悔しい思いを味わったという。不完全燃焼に終わった悔しさを糧に、さらに激しい競争が待ち受けているプロの世界に挑戦する。
 「いつかここで」の夢が現実に

―― 中日から指名された時の気持ちは?
加藤: 素直に嬉しいという気持ちが一番にわきました。地元が三重県なので、小さい頃からよく両親とナゴヤドームに行っていたんです。車で3時間くらいなのですが、20回以上は行ったと思います。その時、「いつか、ここで野球ができる日が来ればいいな」と思いながら見ていました。5位という順位も、僕は満足です。結局は入る時の順位は関係なくなりますから。入ってからが勝負だと思っています。

―― ドラフト当日はどのように過ごしましたか?
加藤: その日はリーグ戦があって、勝てば一部残留、負ければ入れ替え戦という大事な試合でした。だからドラフトのことはほとんど意識していなかったですね。とにかく一部残留のことばかり考えていました。結局、負けてしまって、複雑な気持ちではありましたが、試合後はドラフトのことでドキドキしていました。でも正直、かからないかもしれないと思いながら見ていたんです。最後の秋は試合に出ていなかったですし、チーム状態も良くはなかったので、それがどんなふうに転ぶかわからないところがありました。

―― 志望届を出した時の気持ちは?
加藤: 用紙に自分の名前を書いた時、初めて経験する感覚を味わいました。ただ自分の名前を書くだけなのに、なかなか筆が進まないというか……。なんだか信じられないような気持ちでした。自信がある、ないというよりも、自分は大学でやるべきことはやってきた、そのことを信じて志望届を出しました。

―― 球団からはどんな期待をされていると思いますか?
加藤: 僕の一番のアピールポイントは肩の強さだと思っています。そこを評価してもらったと思いますので、まずはそこをどんどんアピールしていきたい。他の面では指導していただいて、技術の向上をはかっていきたいと思っています。

―― 監督は現役キャッチャーの谷繁元信さん。同じキャッチャーとして、どういうところにすごさを感じますか?
加藤: すべてにおいてすごいと思います。守備だけでなく、打っても2000本安打を達成していますし、「打って守れるキャッチャー」として、日本を代表するキャッチャーだと思います。それこそ僕は小さい頃から見てきた方なので、すべての部分で教わりたいです。

 教訓となった甲子園でのパスボール

―― 高校時代から強肩のキャッチャーとして注目されていました。高校3年の春の甲子園では、初戦で3回走られてすべてアウトにしましたね。
加藤: あれは気持ちが良かったです。その頃は、絶対に誰にも走られないという自信がありました。前年秋の地区大会からひとりも走られていなかったんです。

―― 大学に入って、高校時代から修正したことはありますか?
加藤: 実は、高校の時までは捕ってからの動きが遅かったんです。それでも肩の強さで十分にカバーできていました。でも、大学ではランナーの足も速くなりましたし、ピッチャーのクセを盗むのも早かったので、それでは通用しませんでした。それで、腕の動きを変えました。高校時代は捕った後に、いったん下に降ろして、そこから回して投げるというような無駄な動きが多かったんです。それを大学では体の一番近くを通して、いかにトップのところに早くもっていけるかを意識するようにしました。なかなかクセがとれなくて、体が覚えるまで、何度も練習しましたね。

―― キャッチャーとして、今にいかされている失敗は?
加藤: 甲子園の初戦でのパスボールです。6回表に4−4と同点にされて、なおもランナー三塁という場面で、ノーバウンドで来たボールを弾いて、後逸してしまったんです。それで勝ち越し点を与えてしまいました。結局、7回裏に同点に追いついて、最後は延長で勝ったんですけど、あのパスボールは反省しましたね。サイン違いだったと思うんですけど、それでもキャッチャーはそういうことも常に考えていなければいけないんだなと。そういうミスでピッチャーからの信頼もなくしてしまいますからね。それ以降は、パスボールの数は確実に減りました。ああいう大舞台での失敗が、その後の自分にはプラスになっていると思っています。

 悔しい思いから得た学び

―― もともとはピッチャーをやっていたようですね。
加藤: はい。小学校、中学校とずっとピッチャーをやっていました。高校でもピッチャーをやりたいと思っていたのですが、中学までは田舎で人数の少ないところだったから通用していただけで、高校にもなるとレベルが高くなるので無理かなと。それでサードとして入ったんです。

―― キャッチャーに転向したきっかけは?
加藤: 高校1年の夏の県大会が終わって、新チームになった時に監督から「オマエ、肩が強いからキャッチャーやれ」と。中学3年の時に2カ月くらいやったことはあったのですが、技術的には何もできていなかったので、最初は投げることしかできませんでした。周りからしたら「これでキャッチャーか?」というレベルだったんです。

―― 本格的にキャッチャーをやってみて、どうでしたか?
加藤: しんどいポジションですよね。勝ったらピッチャーが褒められて、負けたらキャッチャーが悪いとなりますしね。「キャッチャーのおかげで勝てた」なんて言ってくれるピッチャーはほとんどいませんし。でも、大変でしたけど、やりがいはありましたね。特に高校時代にバッテリーを組んだピッチャーとは本当に息が合っていて、楽しかったです。お互いに言葉をかわさなくても、わかるんです。だから最後の方は、僕のサインにピッチャーが首を振ることはありませんでした。それで相手バッターが体勢を崩してスイングしたり、完封した試合なんかは、本当に嬉しかったです。

―― 大学に入って苦労したことは?
加藤: 高校とは違って、いろいろなピッチャーが投げますし、何より変化球のキレが違いました。曲がりも大きいし、速いしで、キャッチングが難しかったです。ワンバウンドのボールも止めづらくて、そういうところで最初は苦戦しました。それでも学年を追うごとに、徐々に上達してこれたと思います。

―― リード面ではどうでしたか?
加藤: 実は最後はリード面を指摘されて、試合に出られなかったんです。でも、ベンチから試合を見ることで、いろいろと感じることができ、勉強できた部分は多かったです。「自分が出ていたら、こうするな」とか、逆に「自分やったらこうしていたけど、それだったら打たれるんやな」とか……。一番に感じたのは、キャッチャーはただ構えて、壁のようになっていては、ピッチャーが投げづらいんだなということ。「低く」とか「広く」とかジェスチャーでピッチャーの気持ちを乗せていくことがいかに大事か。もちろん、自分もやってはいましたが、改めて重要性を感じました。他のキャッチャーは自分以上に大げさにやっていたので、自分もそうしていきたいなと思いました。

―― 大学で得たこととは?
加藤: 小、中、高とうまくポンポンとレギュラーになって、ライバルと争うということもなかったんです。それが大学で厳しい競争にあって、実際に試合に出られない悔しさを味わいました。そういうことは初めてに近かったので、ある意味、いい経験ができたなと思っています。大学は最後は不完全燃焼で終わってしまったので、その悔しさをプロの舞台でぶつけたいと思います。

 同級生・山崎康との対戦を楽しみに

―― プロでの目標は?
加藤: まずは守れるキャッチャーになりたいと思います。ディフェンスの面で、野手からも信頼されるようになりたいです。そのためには普段からのコミュニケーションが大事だと思うので、それは積極的にやっていきたいと思っています。理想はやっぱり谷繁監督です。技術的なことはもちろんですが、プロの世界で20年以上、第一線で活躍されている方なので、谷繁監督のように1年でも長くということを目標にしています。

―― プロで対戦したいピッチャーは?
加藤: 横浜DeNAに1位で入った山崎康晃(亜細亜大)です。ずっと東都リーグで対戦していて、なかなか自分は山崎から打てなかったんです。実は彼は帝京高校出身で、甲子園でも対戦しているんです。その試合で山崎自身は投げていないのですが、高校時代から知っているピッチャーでもあるので、プロの舞台でも対戦したいですね。

―― 山崎選手のどんなボールをどう打ちたいですか?
加藤: 彼はインステップするので、極端に言えば、右バッターの背中からバンッとボールが来るんです。だから外角のボールが遠く見えるので、ボールと思っていてもストライクだったりするんですよね。そういう真っすぐをストライク、ボールの際どいところに出し入れするのがうまいピッチャーなんです。彼自身も真っすぐに一番自信を持っていると思うので、その真っすぐを真芯でとらえて、会心の一打を打ちたいですね。

加藤匠馬(かとう・たくま)
1992年4月29日、三重県生まれ。三重高1年夏からキャッチャーに転向し、3年の春には甲子園に出場。初戦の今治西戦では3度の盗塁をすべて牽制で阻止した。青山学院大では3年春から正捕手となり、4年春の立正大との入れ替え戦では強気のリードで投手陣を牽引し、1部残留に貢献した。175センチ、74キロ。右投右打。

(聞き手・斎藤寿子)

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