22日、世界選手権(8月、北京)の男子日本代表選考会を兼ねた「東京マラソン2015」が、東京都庁前から東京ビッグサイトまでの42.195キロで行われ、エンデショー・ネゲセ(エチオピア)が2時間6分で優勝した。日本人トップは今井正人(トヨタ自動車九州)が日本歴代6位の2時間7分39秒で7位に入った。女子の部はベルハネ・ディババ(エチオピア)が2時間23分15秒で制した。同一国の男女アベック優勝は大会初。車いすの部は男子が洞ノ上浩太(avex)、女子は土田和歌子(八千代工業)が優勝。洞ノ上は初優勝、土田は8連覇を達成した。
(写真:優勝したネゲセ。「世界記録を破るのが夢」と意識は高い)

 

 9年目の東京マラソンは、今年も主役はアフリカ勢だった。エチオピアのネゲセが、ロンドン五輪&世界選手権モスクワ大会金メダリストのスティーブン・キプロティチ(ウガンダ)、昨年の東京マラソン優勝者のディクソン・チュンバ(ケニア)との終盤の争いを制した。

 ワールドマラソンメジャーズ(WMM)に加入してから3年目。今年もハイレベルなメンバーが揃った。大会主催者は五輪、世界選手権と世界大会を連覇したキプロティチを招聘し、さらにはチュンバをはじめとした自己ベスト2時間4分台の選手を4人がエントリーした。好タイムを期待し、ペースメーカーを1キロ2分58秒で設定。目標タイムを国内最高2時間5分18秒の更新に置いた。

 スタート地点の東京都庁の気温は8度。予報されていた雨もスタート前には止んだ。高速レースへと天が味方としたと思われたが、時折冷たい風が吹くなど体感では肌寒い。このコースコンディションが響いたのか、ペースメーカーは設定タイムより1、2秒遅いペースで進み、そのまま盛り返すことができなかった。結局、30キロを1時間29分50秒と、予定よりも約1分遅いタイムで通過した。

 ペースメーカーが離れると、選手たちの駆け引きが始まった。ネゲセとツェガエ・ケベデ(エチオピア)がレースを引っ張る。10人いた先頭グループはばらけはじめ、徐々に振るい落とされていく。35キロを過ぎてネゲセ、キプロティチ、チュンバの三つ巴の争いに。ネゲセは、「とにかく行くだけ」と38キロ過ぎにペースを上げて、突き放しにかかる。

 ネゲセの40キロ通過タイムは1時間59分21秒。2番手のチュンバに7秒、3番手のキプロティチに34秒の差をつけ、独走態勢に入った。26歳のエチオピア人は、そのまま逃げ切り、2時間6分ちょうどでフィニッシュ。2年前に記録した自己ベストには1分8秒及ばなかったが、WMMを初制覇し、賞金800万円を手にした。

「このために4カ月近く準備してきた」と、ネゲセは今大会に向け、ハードなトレーニングを積んできたという。WMMを制した次の目標は世界選手権。「優勝してオリンピックに参加したい」と意気込んだ。

 今井、初の世界大会代表入りへ大きな一歩

 世界選手権の選考レースを兼ねていた今大会。優勝争いには絡めなかったが、日本勢にも光明が見えた。マラソンナショナルチームの今井が自己ベストを叩き出し、日本人としては3年ぶりに2時間7分台をマークした。日本陸上競技連盟の尾縣貢専務理事も「男子マラソン飛躍のきっかけとなる」と喜んだ。
(写真:「これまでは気持ちの空回りが多かった」と今井。10度目のマラソンで殻を破った)

 序盤から先頭集団で粘っていた今井だったが、30キロ過ぎてからはアフリカ勢のペースアップに離された。それでも「いつもは硬くなるが、動かしたいところは動かせた」と、そのままずるずると引き下がるのではなく、食らいついていった。

 8番手から前を追いかける今井。36キロ過ぎに比較的フラットなコースの中で、高低差約10メートルの上り坂となる佃大橋を迎える。順天堂大学時代に箱根駅伝で大活躍し、“山の神”と謳われた今井は得意の上りで自己ベスト2時間4分38秒の実力者ケベデをとらえる。ケベデをかわすと、マルコス・ゲネティ(エチオピア)に並んだ。

 しかし、「もう一段ギアを上げる走り」(今井)が出来ず、そこから突き放せない。40キロ通過時点ではゲネティと1秒差だったが、その後はリードを広げられる一方だった。それでも2時間7分39秒でゴールし、自己ベストを2分近く更新。谷口浩美の記録を上回り、日本歴代6位のタイムをマークした。

 日本陸連の幹部は軒並み高い評価を与えた。酒井勝充強化副委員長は「上位ではなかったが、世界のトップクラスの中で最後まで絡んでいった」と口にすれば、尾縣専務理事は「積極的に走り、一度離されそうになっても冷静に周囲を見て、ゴールへつなげたと評価している」と語った。

 箱根駅伝で一躍スターダムに駆け上った今井は、順大卒業後にバルセロナ五輪マラソン銀メダリストの森下広志に指導を仰いだこともあり、大きい期待を寄せられてきた。だがマラソンでは目立った成績を残せず五輪、世界選手権、アジア大会と大きな国際大会での代表入りは果たせていない。今回の走りで、自身初の世界選手権代表選出は濃厚だ。

 これまで順調とは言えなくとも、一歩一歩と、成長の坂を上っている今井。マラソン挑戦後は、ベストタイムを少しずつ更新していた。本人は「ここからがスタート」と語った東京での一歩で、北京へと大きく近付いたのは確かである。

 男子マラソン上位の成績は以下のとおり。

1位 エンデショー・ネゲセ(エチオピア) 2時間6分0秒
2位 スティーブン・キプロティチ(ウガンダ) 2時間6分33秒
3位 ディクソン・チュンバ(ケニア) 2時間6分34秒
4位 シュミ・チャサ(バーレーン) 2時間7分20秒
5位 ピーター・ソメ(ケニア) 2時間7分22秒
6位 マルコス・ゲネティ(エチオピア)2時間7分23秒
7位 今井正人(トヨタ自動車九州) 2時間7分39秒
8位 ツェガエ・ケベデ(エチオピア) 2時間7分58秒
9位 佐野広明(Honda) 2時間9分12秒
10位 ガンドゥ・ベンジャミン(ケニア) 2時間9秒18秒
(写真:エリートランナーを含む約3万6千人が参加し、完走率は96.4%だった)

(文・写真/杉浦泰介)