今季、24年ぶりの優勝を目指す広島で打のキーマンと言えるのが丸佳浩だ。昨季は主に3番に座り、初の打率3割をマーク。リーグトップの100四球を選んで、出塁率.419は1位のウラディミール・バレンティン(東京ヤクルト)に、わずか3糸差の2位だった。ポイントゲッターとしてだけでなく、チャンスメイクもできる左バッターは、今の赤ヘル打線にはなくてはならない存在である。緒方孝市監督の現役時代の背番号「9」を背負い、どんな意識を持って打席に入っているのか。二宮清純がインタビューした。
(写真:2番・菊池とのコンビを「やりやすい」と語る)
二宮: 丸さんは1軍に定着してから、打率のみならず、出塁率も年々アップさせています。しかも打率と比べれば出塁率が1割以上も高い。この数字は意識しているのでしょうか。
: 1軍に出始めた頃は必死にやっていただけで、数字への意識はありませんでした。でも、年々やってきて振り返ってみると確かに出塁率が高い。今では、そこを自分の良さだととらえて打席に入っています。

二宮: カープは、ずっと低迷が続いたこともあってか、バッターは淡泊な傾向が強かった。早いカウントから打って凡打するのはもったいないと感じることが少なくありませんでした。
: そう思いますね。好球必打はいいんですけど、1イニングが数球で終わってしまうこともありましたから……。

二宮: そんな中で丸さんのようにヒットだけでなく、四球を選んで出塁できる選手は貴重です。事実、丸さんが上位打線に定着し、菊池涼介選手とコンビを組むようになってから、カープ打線にしぶとさが出てきました。
: もちろん、僕も最初から四球を取りに行くわけではありません。打席には打ちに行くべき球と、打ちに行ってはいけない球をきちんと整理して入る。その結果として、打ちに行く球が来なければ、四球でいいという考えです。

二宮: 高校時代から野球ノートをつけているとか。今でも、ノートにメモをして相手ピッチャーのことを研究しているそうですね。
: はい。試合中でも試合後でも気づいたことはノートに書いています。ピッチャーの癖だけでなく、打席ごとにどういう考えを持っていたのかを記録していますね。前田智徳さんには現役の時に、いろいろアドバイスしていただきましたが、「大事なのは技術よりも考え方だ」とよく言われました。後で振り返って次につなげる上でも、いかに考えて打席に入るかが重要なんです。

二宮: 着実に階段を上がって、今や日本代表にも選ばれる選手になりました。3割も打って、自信が芽生えてきたのでは?
: 自信……それは今もあまりないですね。確かに3割は打てましたけど、なかなか自信と言えるものはない。もちろん、1軍に出始めた頃と比べれば雰囲気には慣れてきました。最初はエラーしちゃいけないとか、打たなきゃいけないとか、いろいろ余計な心配をしていたんです。それはなくなってきましたね。

二宮: 不安が少なくなってきたというのが、裏を返せば自信と言えるのでは?
: うーん。でも、試合にずっと出続けることが僕の目標ですから、そうなると当然、結果を残し続けなきゃいけない。ファン目線で考えたら、1度、3割をクリアしたら、今年はそれ以上の成績を求められます。3割は打って当たり前と見られる。自信のあるなしより、それにしっかり応えたいという思いだけですね。

二宮: 昨季は全試合出場も達成しています。カープの歴代の名選手を見ても、山本浩二さん、衣笠祥雄さんと、いずれも全試合出場しているシーズンが長く続きました。チームの黄金期もそことリンクしています。やはり、軸となる丸さんや菊池選手が試合に出続けることがカープが優勝や上位を狙う上での大前提と言えるでしょう。
: その通りですね。キクとも、それはいつも話しています。「全部出てこそのレギュラーだ」と。それができれば、自ずと数字や成績はついてくるだろうと信じています。

二宮: 今季、「ここをもっと伸ばしたい」と思っている部分はありますか。
: 数字よりも、ココイチで打てる選手になりたいですね。前田さんからも言われました。「いくら打っても、チャンスでダメなら意味ないぞ」と。昨年は得点圏打率も3割は超えていましたが、やっぱり、あそこで1本打ってランナーを返しておけば違っただろうなと反省する打席がたくさんありました。ほぼ3番を打たせてもらった割には打点も67と少ない。クリーンアップを任されている以上、チャンスで結果を出していきたい。

二宮: ところで趣味がクラシック音楽鑑賞だとか。興味を持ったきっかけは?
: もともとピアノの音がすごく好きで、高校の音楽の授業でも周りがみんな寝ちゃっている中、僕は結構楽しんで聞いていたんです。プロに入ってからラフマニノフのピアノ協奏曲を登場曲にしたこともあるんですけど、球場でかけるとあまり響かなくて聞こえない(苦笑)。

二宮: 球場でかけても、ラフマニノフだと知らない選手がほとんどでしょう?
: 全く知らないです。「何、それ?」って言われます。キクなんか絶対興味ないと思う(笑)。他の選手に広めようとしても、なかなかついてこれないので、もう半分諦めていますね……。でも、クラシックの良さを知ってほしいので、また登場曲にかけるのもありかなと考えています。

二宮: では今は自宅や移動中に楽しんでいると?
: 家は子どもが生まれて、ゆっくり聴く時間もとれないですけど、新幹線での移動や遠征先ではたくさん聴いています。

二宮: ちなみに今のオススメは?
: 最近聴いているのは、ショパンのピアノ協奏曲1番と2番。ラフマニノフのピアノ協奏曲2番、チャイコフスキーのバイオリン協奏曲、メンデルスゾーンのバイオリン協奏曲、ベートーヴェンの交響曲は1番から9番まで……。

二宮: そんなにクラシックの楽曲名がスラスラ出てくる野球選手には初めて会いました(笑)、そう言われてみると、丸さんのプレーは音楽を奏でているような心地よい躍動感があります。
: 本当ですか(笑)。他にはショパンの短編の曲集も好きですね。

二宮: 2年連続Aクラス入りを果たし、今季は周囲も優勝との声が高まっています。チームが年々、良くなっている手応えは感じているでしょう?。
: それはあります。一昨年、初めてクライマックスシリーズに出られた時は、それだけですごくうれしかった。3位だったのに、喜びがほぼ100%だったんです。でも、昨年は同じ3位でクライマックスに出ても、悔しい思いしかなかった。これは僕だけでなく、チーム全体が共有している気持ちでしょう。それだけチームが成長している。今年は本当に優勝だけを狙って、チーム全員で戦えると感じています。

<現在発売中の講談社『週刊現代』では丸選手のインタビュー記事が掲載されています。こちらも併せてお楽しみください>