(写真提供:金沢市)

 2020東京オリンピックの聖火ランナーを務めさせていただくことになりました。決定した昨年末、Facebookで「聖火ランナー」について最初のメッセージを発信しました。その中で私は「石川県を走る」と書いています。


<聖火ランナーとして、石川県を走らせていただくことになりました。なんて光栄なことでしょう。今から足が震えています。本当にありがとうございます。感謝と希望を胸に、心を込めて走ります>

 

 Facebookでの報告後、大変な数のお返事をいただきました。祝福、応援、激励など。中には「転ぶな」、「練習につきあいます」という方までいらっしゃいました。

 

 聖火ランナーを拝命したのは、支えてくださる皆さまのおかげであり、大変、光栄なことだと感じました。嬉しいし、感謝でいっぱい。心を込めて「走る」と考えていました。しかし、この思いは少しずつ変わっていくことになります。

 

 聖火ランナーについての報告第2弾は新年のご挨拶としてSTANDのメールマガジンにて発信しました。

 

<あけましておめでとうございます。2020年が幕を開けました。そしてSTANDは15年目、みなさまのあたたかいご支援に心より感謝申し上げます。
 新年早々私事で恐縮ですが、聖火ランナーとして6月1日に石川県を走らせていただくことになりました。私事を新年のご挨拶にまたまた書くのか~と躊躇したとき、改めて思いました。いいえ、これは決して私事ではありません。これまで、たくさんの方に教えていただき、支えていただき、叱っていただき、大きな声で応援いただき。そのお陰で拝命したことなのだと。
 いよいよその日トーチを持ったとき、どんな景色が拡がるのか楽しみでなりません。これから先の歩むべき道を見せてくれるに違いありません。万端整えて、臨んでまいります。
 本年がみなさまにとりまして素晴らしい年となりますよう心より祈念申し上げます>

 

 この文は1月7日に送ったものです。この時も「走る」と書いています。そして「これは私事では決してない。多くの方との関わりのなかから出てきたもの。私がお世話になった方々からいただいたものだ」と考えていました。この後、さらに多くのメッセージをいただきました。

 

 同じく聖火ランナーを務める方からは以下のようなメッセージが。
<伊藤さんがつないでくださる聖火、私は7月某所で、つながせていただきます。>
 このメッセージをいただいて、聖火ランナーの役割は「走る」ではなく「つなぐ」ことなのだと意識がはっきりと変わりました。

 

 また、かつて国土交通省にお勤めだった方からは次のようなメッセージをいただきました。
<聖火ランナー決定おめでとうございます。今までのご苦労と周りの人々の支えの結晶だと思います。
 私事で恐縮ですが……地域に勤務していた折、タイミングに恵まれ、いくつもの道路や水門の開通式・完成式を行うことができました。いずれのプロジェクトも私が勤務するずっと前、開始から10~20年の歳月を要したもので、先人の苦労を偲びつつ地元の皆さんと完成の喜びを分かち合うものでした。>

 

 胸に沁みました。うーんとうなりました。私って、本当にまだまだわかっていない。聖火ランナーに選ばれた私が感謝し思いを馳せるべきなのは、「私がお世話になった方々」だけではありません。これまで苦労されてきた先人や、その人たちによって積み重ねられてきたもの。そして様々な思いで活動をしてこられた私が出会っていない多くの人々に対してなのだ、と。

 

 改めて聖火リレーとは何か。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会ウェブサイトから一文を引用します。

 

<ギリシャ・オリンピアの太陽光で採火された炎を、ギリシャ国内と開催国内でリレーによって開会式までつなげるものです。オリンピックのシンボルである聖火を掲げることにより、平和・団結・友愛といったオリンピックの理想を体現し、開催国全体にオリンピックを広め、きたるオリンピックへの関心と期待を呼び起こす役目を持っています。>

 

 聖火リレーにはオリンピックへの期待だけでなく、続いて開催されるパラリンピックへつなぐ思いも持ち臨みたいと考えています。聖火はこれから先の歩むべき道を照らしてくれるに違いありません。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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