12日、第91回競泳日本選手権の最終日が行われた。男子400メートル個人メドレー決勝は萩野公介(東洋大)が4分8秒54で制した。萩野は同種目を4連覇し、史上初の3年連続の4冠以上(2013年は5冠)を達成した。一方、女子も200メートル平泳ぎを制した渡部香生子(JSS立石)が4冠。女子の4冠は萩原智子以来、13年ぶり2人目の快挙を成し遂げた。萩野は瀬戸大也(JSS毛呂山)と、渡部は金藤理絵(Jaked)とともに派遣標準記録を突破し、8月の世界選手権代表に内定した。女子50メートルバタフライは、中学3年の池江璃花子(ルネサンス亀戸)が初優勝を収めた。中学生の日本選手権制覇は19年ぶり。男子100メートルバタフライは藤井拓郎(コナミ)が、女子400メートル個人メドレーは清水咲子(ミキハウス)が昨年に続いての優勝に加え、派遣標準記録をクリアしたため、世界選手権代表入りを果たした。

 

 女子100メートル自由形を内田美希(東洋大)が、女子200メートル背泳ぎを赤瀬紗也香(日本体育大)が連覇。しかし、いずれも派遣標準記録に届かず、個人種目での代表内定はならなかった。その他の種目は男子100メートル自由形は中村克(早稲田大)が、女子1500メートル自由形は菊池優奈(東洋大)が初優勝。男子1500メートル自由形は平井彬嗣(明治大)が2年ぶりに制した。

 再戦の舞台はロシアへ

 6日間行われた大会のフィナーレを飾るのは、男子400メートル個人メドレーだ。同い年のライバル萩野vs.瀬戸――。今大会の決勝で3度目の対戦となった。

 3100人の観客が固唾を飲んで見守る中、号砲は鳴らされた。レースは大方の予想通り、ロンドン五輪銅メダリストの萩野と一昨年の世界選手権を制した瀬戸のデッドヒート。まず最初に仕掛けたのは瀬戸だ。得意のバタフライで先頭を奪う。100メートルは萩野の持つ日本記録を0秒54上回るペース。追いかける萩野は0秒64差の2番手につけていた。

 続く背泳ぎは萩野がアドバンテージを持つ種目。徐々に差を詰めると、瀬戸を抜いた。200メートルでは逆に0秒55の差をつけた。泳法が平泳ぎに変わると、瀬戸がまた抜き返す。瀬戸とすれば、ここで引き離したかったがほぼ並んでラスト100メートルを迎えた。

 最後の自由形は萩野の真骨頂。ここまで力を溜めていたかのようにラストスパートで再び瀬戸を抜き、ぐんぐん引き離した。ターンのドルフィンキックで「こりゃダメだと思った」と瀬戸が白旗を振るほど、差をつけた。結局、2秒以上の差をつける圧勝だった。

 萩野は今大会背泳ぎ2種目を回避し、4種目に絞った。4冠は達成したものの、4種目とも自己ベストには及ばず、「記録は不満」と語った。冬に右肩をケガしたため、満足のいく練習を積めなかった。日本選手権へのモチベーションが“僕を速くしてくれるだろう”と期待したというが、練習は嘘をつかなかった。

 それでも勝ち切った萩野の勝負強さは光る。東洋大で萩野を指導する平井伯昌コーチは「瀬戸君が一番のライバル。状態が悪くても勝ったのは自信になる」と評価した。一方の瀬戸は200メートル自由形、200メートル個人メドレーに続き、今大会の決勝3連敗となった。それでも「この時期にこのタイムは上出来」と手応えは掴んでいる。

 8月の世界選手権で金メダルを獲得すれば、リオデジャネイロ五輪代表が決まる。萩野と瀬戸はあくまで照準を夏に置いている。2人の本当の意味での真剣勝負は、ロシアで繰り広げられるだろう。

 “壁”を破れず、涙のスプリンター

「この1本に懸けて今まで練習してきた。出し切れなかったのが、すごい悔しいです」

 内田は2年連続で自由形短距離2冠(50メートル、100メートル)を達成したものの、その表情は悔しさが滲み出ていた。テレビのインタビューでは気丈に振る舞っていたが、彼女はミックスゾーンで他の選手の取材が終わるのを待つ間、溢れ出す涙を止めることはできなかった。

 ここまでの歩みは順調だった。女子の自由形短距離を引っ張ってきた上田春佳が引退した後の日本選手権で50メートルと100メートルと2冠を達成し、名実ともにエースとなった。8月のパンパシフィック選手権では決勝進出し、7位入賞。9月の日本学生選手権では50メートルで日本新記録を樹立した。アジア競技大会(韓国・仁川)は出場した全4種目で表彰台に上った。世界短水路選手権で50メートル、100メートルで日本新を連発。3日前の50メートル自由形準決勝でも自らの日本記録を更新し、日本人初の24秒台(24秒97)をマークした。

 準決勝を1位で通過した内田は第4コース。今大会を沸かせている中学生の池江、自由形2冠(200メートル、400メートル)の五十嵐千尋(日本体育大)に加え、オリンピックを経験した松本弥生(ミキハウス)、山口美咲(イトマン)ら強敵ひしめく中でセンターポジションを奪った。

 内田はスタートで勢い良く飛び出すと、すぐに先頭に立った。前半の50メートルは25秒99。レース前のプラン「25秒70台」よりは少し遅れたが、日本記録を上回るペースでターンした。しかし、隣を泳いだ松本も食らいついてきた。内田は「気持ちに余裕がなくなってしまった」と自信が揺らいだ。後続の追い上げを許さず、1着でゴールしたが、フィニッシュタイムは54秒15――。派遣標準記録には、わずか0秒14届かなかった。

 東洋大で内田を指導する平井コーチは「今一つ記録がいかなかったのは本人も心当たりがあると思う。体力的に不足している」と指摘した。世界とは差が大きいとされる自由形。しかし、平井コーチは「派遣標準記録を突破するのが難しいと言われていますが、上田春佳は突破しています。まだその記録を100メートルでは上回れていない。(内田には)派遣標準記録を必ず切れるという頭でいてほしい」と彼女に注文をつけた。

「リオでは決勝の舞台で戦ってメダルを狙いたいと思っている。まだまだこの記録じゃ狙えない」。自由形は池江をはじめとした若い選手が下から突き上げてきている。日本では追われる身だが、「まだまだ負けるわけにはいかない」と内田は第一人者としてのプライドも覗かせた。8月の世界選手権は個人種目での出場は逃したが、リレー種目での出場は決まった。まずは100メートルでの54秒台の壁を破ってから、本番に臨みたい。それが女子短距離のエースとして、課された最初の命題である。

 最終日の主な結果は次の通り。

<男子100メートル自由形・決勝>
1位 中村克(早稲田大) 48秒78
2位 塩浦慎理(イトマン東進) 48秒86
3位 丸山徹(スウィン埼玉) 49秒48

<男子100メートルバタフライ・決勝>
1位 藤井拓郎(コナミ) 51秒77
2位 川本武史(中京大) 51秒89
3位 梅本雅之(慶應義塾大) 52秒48

<男子400メートル個人メドレー・決勝>
1位 萩野公介(東洋大) 4分8秒54
2位 瀬戸大也(JSS毛呂山) 4分10秒97
3位 藤森丈晴(日本体育大) 4分13秒93


<男子1500メートル自由形・決勝>
1位 平井彬嗣(明治大) 15分1秒78
2位 山本耕平(ミズノ) 15分2秒52
3位 竹田渉瑚(イトマン) 15分11秒15
(写真:2年ぶり2度目の優勝も派遣標準記録に届かなかった平井)

<女子50メートルバタフライ・決勝>
1位 池江璃花子(ルネサンス亀戸) 26秒49
2位 黒木満佐子(中央大) 26秒78
2位 福田智代(コナミ) 26秒78

<女子100メートル自由形・決勝>
1位 内田美希(東洋大) 54秒15
2位 松本弥生(ミキハウス) 54秒34
3位 池江璃花子(ルネサンス亀戸) 54秒76 ※中学新

<女子200メートル背泳ぎ・決勝>
1位 赤瀬紗也香(日本体育大) 2分11秒01
2位 川除結花(日本体育大) 2分11秒06
3位 酒井夏海(スウィン南越谷) 2分11秒09

<女子200メートル平泳ぎ・決勝>
1位 渡部香生子(JSS立石) 2分20秒90
2位 金藤理絵(Jaked) 2分21秒90
3位 今井月(本巣SS) 2分23秒55 ※中学新
(写真:世界選手権の代表入りを逃した今井<右>を慰める渡部)

<女子400メートル個人メドレー・決勝>
1位 清水咲子(ミキハウス) 4分36秒12
2位 高橋美帆(ミキハウス) 4分38秒13
3位 樋口恵夢(セントラル浦安) 4分40秒42

<女子1500メートル自由形・決勝>
1位 菊池優奈(東洋大) 16分25秒92
2位 佐藤千夏(スウィン大教) 16分34秒36
3位 和田麻里(中京大) 16分39秒72

※選手名の太字は個人種目での世界選手権代表内定。

 

(文・写真/杉浦泰介)