社会現象にもなった「カープ女子」なる言葉を耳にするようになったのはカープが16年ぶりにAクラス入りした平成25年あたりからだ。赤いユニホームに身を包んだ若い女性の一団が新市民球場のみならずビジターのスタジアムの一角までしめるようになったのは、そう昔の話ではない。球団はこうしたカープ女子人気にあやかろうと平成26年5月に「関東カープ女子野球観戦ツアー」を企画した。資生堂とのタイアップでメーキャップ講座も実施した。大手化粧品会社を巻き込んでのマーケティングは新市民球場と共に生まれ変わった新生カープのイメージづくりに一役買うものだった。

 

<この原稿は広島アスリートマガジン2019年5月号に掲載されたものです>

 

 スタジアムの中で「カープショー」を楽しむにはユニホームやタオルマフラー、リストバンド、帽子、メガホンなど観戦用の小道具が必要である。それは「ディズニーショー」におけるミッキーマウスがデザインされた蝶ネクタイやカチューシャ、あるいはオペラグラスのようなものだ。観戦のための必需品といっても差し支えあるまい。観客の購買意欲を刺激するには商品にも「進化」が求められる。幸いなことに球場には、日々ドラマが生まれる。優勝すれば記念Tシャツを、主力選手が記録を達成すれば、数字の入ったメモリアルTシャツをプリントして販売する。要するに思い出のギフト化である。

 

 こうした販促方針に従い、カープはこれまで1000種類を超えるオリジナルグッズを開発し、販売してきた。かつては3億円にも満たなかった売り上げは平成26年26億円、平成27年35億円、平成28年53億円、平成29年54億円と右肩上がりで推移し、今では入場料と並ぶ収入の大きな柱になっている。

 

 カープは新市民球場が完成し、入場者数が大幅に増えたのを機に「攻めの経営」にカジを切り始める。平成27年オフにはメジャーリーグきっての富裕球団ニューヨーク・ヤンキースで活躍していた元カープの黒田博樹に4億円という高額年俸を提示し、契約にこぎつけた。また平成28年には1億2000万円を投じ、グラウンドの芝を張りかえた。同年にはキャンプ地の日南市にポンと1億円を寄付した。ポスティングシステムを利用してロサンゼルス・ドジャースに移籍した前田健太の移籍金のお裾分けだったとはいえ、今までのカープには考えられないような大盤振る舞いだった。

 

 そして平成30年のオフにはFA権を取得した主力選手の丸佳浩に4年総額17億円という金額を提示して引き止めを図った。結果的に5年総額25億円以上を提示した富裕球団の巨人にはかなわなかったものの、丸への高額年俸提示は経営体力の向上を示すものだった。

 

 平成12年代に入ってからのカープの観客動員数と売上高、純利益(税引前の利益から法人税や住民税、事業税、法人税等調整額などを差し引いた金額)を見てみよう。ストライキ前の平成15年12月期の年間観客動員数は94.6万人、売上高は65億4300万円、純利益は8300万円。それが15年同期には観客動員数211万人、売上高148億3256万円、純利益7億6133万円にまで膨れ上がったのである。

 

 現在、スポーツビジネスの主流は「放映権ビジネス」からスタジアムやアリーナを中心とした「ファシリティービジネス」に移りつつある。カープの躍進が続くか否かのカギはスタジアムの「進化」やグッズ類の「改良」が握っている。現状を見る限り、その見通しは明るい、と個人的には考えている。

 

(おわり)

 

(このコーナーは二宮清純が第1週木曜、書籍編集者・上田哲之さんが第2週木曜、フリーライター西本恵さんが第3週木曜を担当します)


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