北國銀行Honey Beeは2019年度、日本ハンドボールリーグ6連覇を含め、4冠を達成した。女子日本代表(おりひめジャパン)の選手を数多く揃える常勝軍団である。今年度から新たにキャプテンを任されたのが、入社6年目を迎える27歳の大山真奈だ。

 

 

 

 

 

 

 主なポジションはセンターバック(CB)。CBは攻撃において司令塔役を担い、広い視野、高い技術、そして得点力が求められる。大きく分けると点取り屋とパサーの2つのタイプがいる。大山は後者にあたる。しかし彼女の特長はそれだけにあらず。「一番はコートプレーヤーならどこでもできることです。使い勝手がいい選手。複数のポジションをできるのは私の強みだと思っています」。そのマルチなプレーぶりはチームの誰もが認めるところだ。

 

 荷川取義浩監督の大山に対する評価は非常に高い。

「ハンドボールIQが高い。ディフェンス面を指導したら、オフェンス側のことも考えられる。オフェンスの話をすれば、ディフェンス面にも応用できる。表と裏をうまく使い分けられる子ですね。オールマイティーで、かつ泥臭さもある。センターが主なポジションですが、ポストの役割をすることもありました。左右のバックプレーヤー、左はサイドもできる。器用で頭もうまく切り替えられる。こういう選手が1人いるだけで、チームとしてはとても助かります。これらすべてを持ち合わせている選手は珍しいと思います」

 

 大山と同じ香川県出身、同僚のレフトバック塩田沙代も彼女の存在の大きさをこう証言する。

「視野が広く、周り生かすプレーができる。センターがメインですが、メンバーの組み合わせによっては違うポジションに入ることも可能なので、チームにとってプラスになっています」

 CBへのこだわりは当然あるが、周りを生かすプレーが持ち味だ。チームのために自分をどう生かすか。大山は「ポジションが変われどやることに変わりはないと思っています」と言い切る。

 

 守備力の高さも折り紙付きだ。日本リーグで6季連続ベストディフェンダー賞を獲得している守備のスペシャリスト・塩田の目から見ても「相手の動きを読み、コースを潰すのが上手い」という。荷川取監督は守備力に加え、泥臭さやボールへの執着心を評価している。

「身体を張り守ってくれる。そういった姿勢はリバウンドのボールに対しても垣間見えます」

 

 カウンターの起点

 

 大山の守備での読みの鋭さ、泥臭さが凝縮されたシーンがあった。19年3月に行われた「ANA CUP第43回日本ハンドボールリーグプレーオフ」決勝、オムロンピンティーズ戦で見せたプレーだ。後半23分を過ぎたところで、大山が相手のパスを読み、手を伸ばす。こぼれたボールにすぐさま飛び付き、掴み取ると敵陣へ走るライトウイング鰍場雅代にパスを送った。鰍場がゴールキーパーとの1対1を落ち着いて決めた。終盤に相手を8点差に突き放す、大きなプレーだった。

 

 試合後、その場面を振り返り、大山はこう語っていた。

「私は派手なプレーができるようなプレーヤーではない。泥臭くても1点に絡めるようなプレーを心掛けています」

 泥臭さも彼女の身上である。「自分が頑張れば、点に結び付いたり、点を守れるかもしれない。そういうことは絶対に徹底してやりたい」。ボールに対する執着心はこだわりのひとつだ。

 

 大山の持ち味は、器用さや泥臭さだけではない。堅守速攻をウリとする北國銀行。働き者のミツバチたちは、一刺しで相手をピンチに陥れる。「彼女がディフェンスに入っていると速攻からの得点が増える」と荷川取監督が口にするように、大山はカウンターの起点となる。彼女の自陣からのロングパスは北國銀行、日本代表にとっても大きな武器だ。

 

 アメリカンフットボールのクォーターバックが繰り出すタッチダウンパスのように、鋭い送球が前線を駆ける味方に届けられる。荷川取監督はこう解説する。

「ランニングしながら遠くへ投げると精度が落ちがちですが、大山のパスはそれでも精度が高い。速攻の際、コートを平面ではなく3Dで見えているんだと思います」

 

 その感覚は野球経験で培ったと大山は言う。

「遠くに投げるコントロール、距離感には自信があります。どこにきたらどこに投げた方がいいなどの判断力や感覚は野球から身に付いたんだと思います」

 彼女は小学2年で野球を始めた。実は同時期にハンドボールを始めようとしたのだが、最終的に選んだのは野球の方だった。

 

(第2回につづく)

 

大山真奈(おおやま・まな)プロフィール>

1992年12月7日、香川県高松市生まれ。香川一中で本格的にハンドボールを始める。3年時に全国大会出場。高松商業では全国高校総合体育大会(インターハイ)をはじめ数々の全国大会に出場した。大阪体育大時代は3度の日本一を経験。15年、北國銀行に入団。オールラウンドな能力を買われ、早くから出場機会を掴み、日本リーグなど数々のタイトル獲得に貢献した。16年に日本代表デビュー。世界選手権は17年、19年と2大会に出場した。19年度の日本リーグベストセブンを受賞。北國銀行では今シーズンよりキャプテンを務める。ポジションは主にセンターバック。右利き。身長164cm。

 

(文/杉浦泰介、競技写真提供/日本ハンドボール協会)

 

 


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