21日、世界体操競技選手権(10月、英国・グラスゴー)の日本代表最終選考会を兼ねた「第69回全日本体操種目別選手権」が東京・代々木第一体育館が行われた。男子は床運動(ゆか)で3連覇を達成した白井健三(日本体育大)が3大会連続での代表入り。あん馬で初優勝した萱和麿(順天堂大)と鉄棒で2位だった長谷川智将(日本体育大)が初の世界体操行きの切符を手にした。寺本明日香(中京大)ら5名が決まっていた女子は全日本選手権、NHK杯を含めた各選考会のポイントで最もポイントの高かった宮川紗江(セインツ体操クラブ)が選ばれた。
(写真:チーム貢献度から選ばれた3名<左から白井、萱、長谷川>)
 スペシャリストが集う大会で、白井は他を圧倒した。ゆかでV3を達成。一昨年の世界体操は金メダル、昨年は銀メダルと2大会連続で表彰台に上がっている男は、そのワールドクラスの実力を如何なく発揮した。

 白井にとって、「体操人生を変えてくれた大会」という全日本種目別選手権。16歳だった2年前の同大会で初優勝し、数カ月後には世界の頂点に立った。いわば世界へと飛び立つための踏み切り板だった。

 あれから2年――。坊主頭だった髪型は少し伸び、青色のユニホームはピンク色に変わった。体操の名門・日本体育大の1年になった白井は、成長した姿を見せつける。この日、最初の種目となるゆか。種目のトリはディフェンディングチャンピオンが務めた。スタンドから大声援を浴びながら、フロアに立つ。

 2人前の早坂尚人、1人前の加藤凌平と、順天堂大の2人が続けてラインオーバー。嫌な空気が漂いかけたが、それを切り裂くような鋭い跳躍を白井は見せる。後方宙返り3回半ひねりから前方宙返り2回ひねりでスタートすると、次にG難度の大技「リ・ジョンソン」(2回宙返り3回ひねり)も実施。白井のミスのない演技に観客も大いに沸いた。その後もスピーディーで力強いひねり技を次々に決めた。フィニッシュは自らの名が冠する「シライ/グエン」(後方宙返り4回ひねり)。着地をミスなくまとめると、大きく両手でガッツポーズし、笑顔が弾けた。

 得点は16.450点のハイスコア。2位の谷川航(順天堂大)に1点差をつける圧勝だった。昨年の世界選手権ではラインオーバーのミスを犯し、連覇を逃した。自身で4月の全日本選手権、5月のNHK杯の演技を映像で確認すると「小さい演技になりがちだった」と気付いた。大きく堂々と演技する大切さを知った。日体大で白井を指導する畠田好章監督も「今まで見たことのない演技が出た」と舌を巻いた。

 世界王者という肩書きを引っさげ、鳴り物入りで同大へ入学した白井。畠田監督によれば、「練習量も多い。普段の練習量は(チームでも)一番多いんじゃないですかね。彼はやらなければいけないところをよく考えれている」という。競技に対する真摯な姿勢が白井の技を支えている。そして練習を積んできた自負があるからこそ「自分の演技が出来れば代表に入れる」とのコメントが出てくるのだろう。

 進化を続ける18歳。10月のグラスゴーでは、昨年の世界体操で0.1点差で逃した団体金メダルと、種目別ゆかで連覇を果たせなかった2つのリベンジを狙う。

 種目別選手権の結果は次の通り。

◇男子◇ 

<床運動決勝>
1位 白井健三(日本体育大) 16.450点
2位 谷川航(順天堂大) 15.450点
3位 早坂尚人(順天堂大) 15.300点

<あん馬決勝>
1位 萱和麿(順天堂大) 15.650点
2位 亀山耕平(徳洲会体操クラブ) 15.550点
3位 垣谷拓斗(セントラルスポーツ) 15.350点

<つり輪決勝>
1位 山室光史(コナミスポーツクラブ) 15.500点
2位 岡村康宏(朝日生命) 15.450点
3位 武田一志(徳洲会体操クラブ) 15.400点
(写真:つり輪で6度目の優勝を収めた山室は惜しくも代表入りを逃した)

<跳馬決勝>
1位 小倉圭祐(早稲田大) 15.550点
2位 鈴田佳祐(福岡大) 15.400点
3位 塚本貴士(日本体育大) 15.100点
3位 佐藤巧(徳洲会体操クラブ) 15.100点

<平行棒決勝>
1位 田中和仁(徳洲会体操クラブ) 15.650点
2位 横山聖(コナミスポーツクラブ) 15.300点
3位 吉岡知紘(セントラルスポーツ) 15.200点

<鉄棒決勝>
1位 齊藤優佑(徳洲会体操クラブ) 15.650点
2位 長谷川智将(日本体育大) 15.400点
3位 植松鉱治(コナミスポーツクラブ) 15.350点

◇女子◇ 
(写真:今回入った宮川<一番右>を含め4人が初代表)

<跳馬決勝>
1位 宮川紗江(セインツ体操クラブ) 14.925点
2位 桑島姫子(戸田市スポーツセンター) 14.375点
3位 村上茉愛(日本体育大) 14.275点

<段違い平行棒決勝>
1位 寺本明日香(中京大) 14.300点
2位 古賀ほのか(日本体育大) 14.150点
3位 中村有美香(四天王寺スポーツクラブ) 13.700点

<平均台決勝>
1位 美濃部ゆう(朝日生命) 14.650点
2位 桑島姫子(戸田市スポーツセンター) 13.950点
3位 杉原愛子(梅花高) 13.900点

<床運動決勝>
1位 村上茉愛(日本体育大) 14.450点
2位 内山由綺(スマイル体操クラブ) 14.200点
2位 杉原愛子(梅花高) 14.200点

(文・写真/杉浦泰介)