皆様、4月以来、3カ月ぶりのご無沙汰になりました。鈴木康友コラムもプロ野球の開幕に合わせて再開いたします。これまでと変わらず、ご愛読のほどよろしくお願いいたします。

 

 見られることで発奮

 6月19日に始まったプロ野球は当初、無観客で行われていました。ベンチの声、打球音、そして投球がキャッチャーミットに収まったときの捕球音。いつもとは違う"球音"が楽しめました。

 

 お客さんがいないことで選手はやりやすくもあり、やりにくくもあったことでしょう。私は無観客の経験はありませんが、引退後にプレーしたマスターズリーグはお客さんはシーンと静かに見るスタイルでした。打席に向かうときに自分のツバを飲み込む音が聞こえ、「なんなんだ、この空間は」と違和感を覚えたものです。そういう意味でお客さんのいない球場でプレーすることに戸惑った選手もいるでしょうね。

 

 逆に無観客ということでプレッシャーがなく、のびのびやれた選手もいるでしょう。特にビジターの試合では、相手チームの応援やヤジでメンタルの弱い選手は萎縮してしまうこともありますからね。私が巨人時代、特に甲子園の阪神戦の声援はすごかった。たとえば2死満塁、阪神の攻撃でショートフライが上がる。そうすると「ウオーッ」という地鳴りのような声がするんです。阪神ファンは「落とせー!」、巨人ファンは「捕れー」と言っていたんでしょうね。ともかくすごい音量でしたよ。フライを追いかけながら「おいおい、これ、オレが捕るのかよ」とドキドキしていました。しかも浜風でボールはどんどん流されていくし(笑)。無観客、そして制限入場下ではそういうことがないので、今季はメンタル面に弱さのあった選手が化ける可能性もあります。

 

 一方、7月10日に初めて観客を入れて行われたゲーム、5試合すべてが1点差の決着で、しかも3つがサヨナラでした。劇的なサヨナラ弾を放った福岡ソフトバンクの柳田悠岐、中日のダヤン・ビシエド、オリックスのアデルリン・ロドリゲス。彼らはお客さんが入ったことで、見られていることを意識して、ここぞの力が出たのでしょう。「人の目」があるといつも以上の力が出る、それもプロ野球選手の特徴です。

 

 ウィズコロナということで今後、従来の応援方法に戻るのはなかなか難しいでしょうが、それでも少しずつお客さんを入れることで、よりプロ野球は熱戦が展開されることでしょう。夏場に向け、期待したいところです。

 

 さて、ペナントレースに目を転じれば、パ・リーグは東北楽天が好調です。首位快走の原動力として大きな存在感を示しているのが、千葉ロッテからFA移籍した鈴木大地ですね。彼はどこでも守れて、足もあって、小技もこなすし、パンチ力もある起用な選手。しかもフォアザチームの精神があるので、ぴたりと2番打者にハマっています。メジャーリーグを含め今は「2番強打者」が流行りですが、鈴木を見ていると、こういう2番バッターがやはりしっくりくるよな、と思ってしまいます。

 

 楽天の強さは打線が文字通り「線」になっていることです。浅村栄斗、銀次、ステフェン・ロメロなど役者も揃っています。特に浅村は良いところで回ってきて、しかも結果を出していますね。ロメロもオリックスから自由契約になり、楽天に拾われた格好ですが、意気に感じているのかよく打っています。

 

 その他、キャッチャーの太田光の活躍も、名前のとおり光っています。正捕手として2割6分打てば上出来ですし、打撃が好調ならリードも良くなり、それが好循環を生み出しています。

 

 唯一、楽天で心配なのは茂木栄五郎。彼はヒジかどこかに痛みがあるのか、送球時に横投げになっています。ショートが横投げで放ると、引っかかったりすっぽ抜けたときに送球が左右にブレる。上投げで上下にブレる分にはファーストは対応できますが、左右にブレると内野安打の危険性も高くなる。茂木も含め、楽天で心配なのはケガですね。

 

 パ・リーグは8月末まで同一カード6連戦という変則日程が続きます。これは選手と

してはキツイですよ。3連戦・3連戦というリズムが体に染み込んでいるから、3連敗や1勝2敗と負けがこんでも、対戦相手が変わることで気分が切り替わります。

 

 ところが同一カードで6連戦だと、そうもいかない。毎週、日本シリーズを戦っているようなもんですよ。だから頭の1戦目、2戦目が大事になる。

 

 オリックスが開幕当初、つまずいたのはエースの山本由伸が"サンデー山本"になっていたからです。中6日の登板日が日曜日。つまり6連戦の最後です。そこまで4敗、5敗しているチームの悪い流れはいくら山本でも断ち切ることができません。今、山本は12球団で一番のピッチャーだと私は思っていますが、その彼はやはり6連戦の最初に使いたいですね。どこかでローテを再編して山本を火曜日、水曜日に投げさせられるようになれば、オリックス浮上の目もあります。

 

 今回はパ・リーグの話だけになってしまいましたが、セ・リーグのことは次回お話しましょう。では、また。

 

<鈴木康友(すずき・やすとも)プロフィール>
1959年7月6日、奈良県出身。天理高では大型ショートとして鳴らし甲子園に4度出場。早稲田大学への進学が内定していたが、77年秋のドラフトで巨人が5位指名。長嶋茂雄監督(当時)が直接、説得に乗り出し、その熱意に打たれてプロ入りを決意。5年目の82年から一軍に定着し、内野のユーティリティプレーヤーとして活躍。その後、西武、中日に移籍し、90年シーズン途中に再び西武へ。92年に現役引退。その後、西武、巨人、オリックスのコーチに就任。05年より茨城ゴールデンゴールズでコーチ、07年、BCリーグ・富山の初代監督を務めた。10年~11年は埼玉西武、12年~14年は東北楽天、15年~16年は福岡ソフトバンクでコーチ。17年、四国アイランドリーグplus徳島の野手コーチを務め、独立リーグ日本一に輝いた。同年夏、血液の難病・骨髄異形成症候群と診断され、徳島を退団後に治療に専念。臍帯血移植などを受け、経過も良好。18年秋に医師から仕事の再開を許可された。18年10月から立教新座高(埼玉)の野球部臨時コーチを務める。NPBでは選手、コーチとしてリーグ優勝14回、日本一に7度輝いている。19年6月に開始したTwitter(@Yasutomo_76)も絶賛つぶやき中。2020年東京五輪(1年延期)の聖火ランナー(奈良県)でもある。

 


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