世界ユース2冠・サニブラウン、輝き始めた原石

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 原石は、煌々と輝き始めた。16歳のサニブラウン・アブデル・ハキーム(城西大城西高)が今シーズン、シニアデビューを果たした。国内最高峰のレースである日本選手権の100メートルと200メートルで2位に入り、シニア相手にも戦えることを証明した。その余勢を駆って、コロンビア・カリで行われた世界ユース(18歳未満)選手権では100メートルと200メートルで2冠を達成。中でも200メートルでは20秒34の大会新を叩き出し、2003年のウサイン・ボルト(ジャマイカ)がマークした記録をも更新した。来月に中国・北京で開催する世界選手権の参加評標準記録(20秒50)を突破。同選手権出場が濃厚となり、短距離個人種目では最年少記録となる。陸上界を席巻する驚異の16歳。若きスプリンターが覚醒したきっかけとは――。


 サニブラウンは187センチの長身で、海外の選手と比べても見劣りしない。事実、同年代と戦った世界ユース選手権でも、高さだけならば頭ひとつ抜けていた。ガーナ人の父を持つハーフ。恵まれた体躯からの大きなストライドが特長である。

 その大きくて力強い走りで、6月の日本選手権では藤光謙司(ゼンリン)、高瀬慧(富士通)ら国内のトップスプリンターを相手にしても、上位に入ってみせた。今月の世界ユース選手権では100メートルが10秒28、200メートルが20秒34と、いずれも大会新記録で優勝した。瞬く間に、スターダムへと駆け上がろうとする16歳に、周囲の期待も急上昇中。今月24日に行われた公開練習でも、多くの報道陣が詰めかけた。

 中学時代から5年間、サニブラウンを指導している城西大城西中学・高校の山村貴彦監督は「ビッグゲームで力を発揮できる。彼の能力の高さはしっかりと1本1本レースによって、修正できる点ですね」と勝負強さやクレバーさを評価する。

 山村は、今シーズンの躍進の理由をこう明かす。
「シニアの試合に出られるようになったことじゃないですかね。そこでシニアの選手たちと初めて走り、自分が戦えることがわかった。記録がどんどん伸びていって、いいタイムといい結果がついてきたことが大きいと思います」
 サニブラウンは5月の静岡国際陸上で、200メートルに出場。シニアデビュー戦を20秒73と、高瀬に次ぐ2位に入った。以降も、着実に結果を残し続けている。手にした自信が彼の成長をさらに加速させていったのだ。

 今年1月には日本陸上競技連盟が2020年の東京五輪に向けた育成プロジェクトとしたスタートした「ダイヤモンドアスリート」にも認定された。エリートとしてのイメージは強いが、その才能は初めから煌めいていたわけではない。山村によれば、小学5年時のサニブラウンの走りは「素人のひどい版」程度で、「練習するみんなの後ろについて、一生懸命走っている印象」だったという。

 中学に進学し、400メートル、1600メートルリレーでシドニー五輪に出場した経験を持つ山村の指導を直接受けるようになってからも、苦労した。当時を振り返り、山村は語る。
「彼は中学生の時に成長痛で、一切試合に出られなかった時期があった。きっとその頃は、陸上競技が楽しくなかったと思うんですよ。5年間付き合っているうちの2年間は、彼は苦しんでいたと思います。そういうところがステップとなって、今があると思いますね」
 雌伏の時を経て、サニブラウンは一気に駆け出した。

 来月には北京での大舞台を経験する可能性が高い。世界ユースの200メートルで参加標準記録を突破し、日本選手権でも同種目の2位に入った。藤光と高瀬が既に代表入りを決めているものの、上限としては1枠残っている。サニブラウンの選出は濃厚だ。本人は「代表に選ばれれば、高校生なりにチャレンジャーとして、シニアの人たちとどれだけ戦えるかを経験していきたい」と抱負を述べた。

「憧れプラス目標」というボルトと直接対決する日は、そう遠くない。“世界最速の男”の背中はまだまだ手の届くところにあるわけではないが、16歳と若く、粗削りな分、その伸びしろに期待する声は多い。まずは29日に和歌山県での全国高校総合体育大会に出場。100メートル、200メートル、400メートルリレーにエントリー予定で、3冠を目指す。

サニブラウン・アブデル・ハキームプロフィール>
 1999年3月6日、福岡県生まれ。小学3年で陸上競技を始め、城西大城西中学・高校に進む。高校1年時に長崎国民体育大会の男子少年B100メートルを大会新で優勝。今年1月には日本陸上競技連盟が2020年の東京五輪に向けた育成プロジェクト「ダイヤモンドアスリート」にも認定された。5月の静岡国際でシニアデビューを果たすと、6月の日本選手権では100メートルと200メートルの2種目で2位に入った。7月にコロンビアで行われた世界ユース選手権では100メートルと200メートルをいずれも大会新記録で制し、2冠を達成した。身長187センチ、体重74キロ。

(文・写真/杉浦泰介)

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