(写真:2016年のホノルルハーフマラソン・ハパルア。再びこの風景を見られる日はいつになるのか…)

 皆がいつもとは異なる夏を過ごした。

 4月の自粛期間ほどではないが、無用の外出を控え、会食などはすべてなくなり、外食する機会もずいぶん減った。家の外においてはマスクを着けることが普通となり、していないとズボンでもはき忘れたように落ち着かなくなり、周囲の視線が痛い。「ランニング中のマスクは必要性が低いので、熱中症予防のためには外して」とスポーツ庁や厚労省などが声明を出しても、マスクをして走る人たちは絶えない。間違いなく未来には「こんな混乱していたよね」と語られる夏だっただろう。

 

 そんな中でスポーツやエンターテインメントも厳しい制限を受け、ほとんどが中止に追い込まれた。参加者はもちろん、主催者や関係者にとっても厳しい状況になった。9月19日から観客制限も緩和され、観戦型プロスポーツは少しずつ通常に近づきつつあるが、選手や関係者の感染防止はもちろん、観客への対策も模索が続いている。

 

 世界最大のサイクルロードレースと言われる「ツール・ド・フランス」が1カ月以上遅れてスタートした。フランス国内を約3000km、3週間をかけて走る大会。選手やチーム関係者だけでも600人、大会関係者やメディアを合わせると移動するのは約4000人と言われるビックイベントが今、フランスで開催され、3週目に入っても大きなトラブルなく進んでいることは注目するべきことだろう。おそらく、この大会で得られた対策の知見が、今後のスポーツイベントに生かされてくはずだ。

 

 そして現状、世界的に苦戦しているのが、参加型スポーツ。マラソンなどのように、大勢の参加者を集めるスポーツは先行例も知見も少なく、様子見が続いている。「人数は集まるが、野外で行うので安全なのではないか」「人があちこちから大勢集まることはリスクが高い」など賛否両論ではあるが、まだ大規模な大会は世界的には開催されていない。世界ではメジャーマラソンが中止や、エリートカテゴリーのみの開催となり、ロンドンマラソンは観客が集まるのを防止するために、壁に囲ったコースでエリートの競技をするという徹底ぶり。そう、一般道で行うマラソンは、選手対策とともに観客対策も難しく、ここが主催者の頭を悩ませる。

 

 開き始めた扉

 

 来春の東京マラソンも、理事会内で様々な意見があり、どのように開催すべきか議論中で、10月の理事会決定が注目される。当初の11月から2月に延期された2万人参加の湘南国際マラソンは、開催前提で募集は始めたものの、最終決定は12月に行うという。3月開催予定の名古屋ウイメンズマラソンが、人数を半分に絞り開催することを発表。エントリーフィーが倍になっても人気の高さは変わらない。海外では12月開催予定のホノルルマラソンが開催予定で進めている。様々な感染防止対策を構築し準備を進めているが、ホノルルの状況がなかなか好転せず、一番の懸念は渡航制限になっているようだ。そんな中で、エストニアやロシアでは1万人規模の大会が開催され、クラスターなどは発生していないという。扉は少しずつ開きつつあるのかもしれない。

 

 とはいえ、誰も正解が分からない中、大会を休止するのが一般的。それでも、なんとか人を元気にする、人の目標になるマラソン大会をやろうとするオーガナイザーたち。ほとんどの大会が、他大会の事例を見定めているような状況で、先頭を走る大会の動向を注視したい。

 

 トライアスロンの世界でも、少しずつ扉が開きだしている。日本国内では大小合わせて通常年間280大会程度開催されているのだが、今年は10大会が開催される予定。10大会中、日本選手権など参加条件がかなり限られた競技会が5つほどある。一般的に参加者を募集する大会は5つ。その中でも1000人規模のものが2つあり、すべて10月に開催される。私はその両方に関与しているので、日々緊張感を持ちながら準備を進めているが、やはり先行事例が少ないことに苦労させられる。しかし、なんとかトライアスロンを成立させようというスタッフの熱い思いが前に進ませているようだ。

 

 そんな中でも、参加者から「家族に反対されました」「職場から止められました」という連絡が事務局に入ることもあり、まだまだ世間での状況の厳しさを感じさせられる。先日は参加者の家族から「クラスターが発生したらどのように責任取るんですか」というお電話もいただき、スタッフの緊張感が高まった。そう、まだ一般社会の中でスポーツは飲食店同様、到底安全エリアとは思われていないことを忘れてはならない。

 

 スポーツは不急かもしれない。しかし不要ではなく、人の生活に必要なものだ。

「こんな時にスポーツなどいらない」という批判もあるだろう。いや、「こんな時だからこそスポーツの力なのだ」という信念を持ち進むことが大切ではないか。その結果、開催できなくても、そのノウハウや知見は新しい時代のスポーツに役立つと信じて……。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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