森喜朗×二宮清純 「言うは易く行うは難し」の東京五輪(中編)
二宮清純: 延期の追加費用が3000億円ぐらいかかると言われています。IOCが700億円ぐらい(6.5億ドル)出すと言ってますが。
森喜朗: まだ全然議論していない。向こうが勝手に言ってるだけ。我々の合意点は延期としたためのものを一つずつ精査して、それから決めましょうと。
<この原稿は『スポーツニッポン』2020年7月23日付けに掲載されたものです>
二宮: IOCが先走ってると?
森: 早く手を打ったんですよ。どうせ負担するのならと、自分たちが負担すべき部分で800億円みたいなことを言ってきたわけ。
二宮: 既成事実のようになりつつある。
森: 総額的にどうなるか。今は全然分かりません。3000億円なら1000億円ずつの3等分案がないわけじゃない。
二宮: IOCが1000億円、組織委員会が1000億円、東京都が1000億円。
森: まあ、国にも負担してもらわないと。大岡裁きみたいなものだね。
二宮: 問題は誰が大岡忠相の役をやるのか。
森: しかし、原則みたいなものはあって、IOCと東京都との契約では、開催都市が全部持つことになっている。だから、今さら何を言うんだというのがIOCの言い分なんです。しかし延期は、東京都のせいでもなければ日本の委員会の責任でもない、かといってIOCでもない。コロナという、地球が反転するような話なんで。
二宮: 今は有事です。
森: それなら、みんなが負担すべきではないかと思うんです。
二宮: 観客減の話はどうでしょう。900億円を見込むチケット収入が減収となれば組織委員会の懐が痛みます。
森: これも言うは易しでね。もう既に切符は世界中で売れているんですよ。無観客にするというのなら全部払い戻しで、これは簡単です。ただ、ソーシャルディスタンスで(席の)間隔を空ける、観客を半分にするとなったら、夫婦でチケットが当たったとして、どっちが行くのかということになる。売るのはコンピューターにかけてやったけど、間引きして分けるのは機械じゃできない。それこそマンパワーでやらないといけない。
二宮: IOCはテレビ放映権料が入れば、それほど懐は痛まない。トーマス・バッハ会長は「(無観客は)望んでいない」と語っています。
森: まあ、ねえ。無観客でやるというならやってみてください、だよ。それまで神様に祈るしかない。
二宮: IOCのジョン・コーツ調整委員長が先日、10月に開催の可否を判断すると言いました。そのあと取り消しましたけど、組織委員会も聞いていた話ですか? それともいきなり?
森: あれは聞いてない。我々はその頃、毎日電話会談をやってましたから、「あれは何だ」と。日本の組織委員会が判断してIOCと相談することでしょうと。10月頃になればある程度いろんな要素が見えてくるんじゃないかということだ、と言うから、様子を見ましょうと。
二宮: その後、遠藤さん(利明副会長)が来年3月くらいまで待ってくれと。
森: 新薬とワクチン(の開発)の話しもありますからね。他にもいろいろと見ているわけですから。
二宮: 確かに治療薬、ワクチンが五輪開催のカギを握るのは事実ですが、その一方で(22年への)2年延期の可能性もゼロではないのでは?
森: 2年はおかしくないんですよ。冬に北京五輪があるだけで、必ずしもまずいわけじゃない。ただ、(パリ五輪がある)24年というわけにはいかない。だから僕は2年ぐらいの延期もと思っていたんだけど、安倍首相は来年で任期が切れる。自民党総裁の任期だから特別に伸ばすのも問題ないけど、そう思われたくないという気持ちがあったんだと思う。
二宮: 組織委も政府も都もIOCに中止カードだけは切らせたくない。ならば2年延期(22年開催)も視野に入れるべきでは?
森: それは、その時相談することですよ。
二宮: 森さんには腹案としてあると?
森: いやまあ、そこまでは。だが、これ以上延ばすとね、物凄い金がかかるんですよ。例えばバスも運転手も何千人と雇って、それをみんな残しておかないといけない。ホテルもそうですよ。他へ貸さないということで。それを今年の分はキャンセルしました、来年また頼みます、それまでは使わないでくださいとか。それ以上のことを言ったら、なお金がかかりますよ。
(後編につづく)