五輪OA枠 守備を重視するなら麻也
いくら代表戦とはいえ、この状況で勝敗を問題視するのはいささか酷だと思っていた。なので、カメルーンとのパッとしない0-0にも腹は立たなかった。だから、というわけでもないが、この1-0に喜ぶ気持ちもそんなにない。植田はこのゴールに酔ってほしいな。自分は大事なところで点が取れる人間だと思い込んでほしいな。なぜか大一番で劇的な一発を決めるセルヒオ・ラモス的存在になってほしいな。それぐらい(十分か)。
ただ、見えてきたものは確実にあった。
森保監督の気持ちになって考えてみる。南米ではW杯予選が始まったが、彼の頭の中にはW杯予選と同じぐらい、ひょっとしたらそれ以上の割合で、東京五輪のことがあるはず。中でも大きいのは、オーバーエージ3人を誰にするか、な気がする。
昨年の夏ぐらいの段階では、3人が誰になるか、予想するのはそんなに難しいことではなかった。点取り屋としての大迫。間違いなし。中島も堅いところ。A代表での重用ぶりからして、柴崎も有力。わたしがブックメーカーの人間だったら、間違いなくこの3人を本命に推していた。
だが、今回の2試合を見て、気持ちが変わりつつある。カメルーン戦での大迫、良くなかった。中島、そもそも代表に呼ばれていない。と、本命のうち2人がグラグラし始めたところで、イタリアンなテイストを身につけた吉田が、冨安ともども盤石の守りを見せつけた。
これは迷う。
日本同様に攻撃の成熟はまだまだだったとはいえ、カメルーンもコートジボワールも弱い相手ではない。にもかかわらず、彼らはゴールを許さなかっただけでなく、決定機、いや、シュートを打たれる機会そのものを激減させた。日本代表史上最高の守り、と言いきってしまいたいぐらいだ。
大きな大会に臨むにあたり、守備を疎かにする監督はいない。吉田と冨安をセットで使うことは、失点を減少させる約束手形を手にするようなもの。わたしだったら、この魅力には抗えない。
収穫満載だったディフェンスに比べ、残念だったのは攻撃面。森保監督は「チャンスはつくれている」と言っていたが、残念ながらこれには同意できない。今回と同じようにチームを見る時間がなかった就任直後のサッカーと比べても、攻撃の頻度、バリエーションともに半減してしまった印象がある。
大迫がいないこの日の日本は、ポストをこなす人間がいないため、中盤の選手がなかなか前を向いてプレーできなかった。中島不在のため、中盤でいわゆる“剥がす”動きのできる選手もいなかった。伊東のスピードがある程度通じると分かってくると、そこにばかり頼ってしまう単調な面も目についた。
大迫、中島がいることによって生み出された化学反応は、ユトレヒトでは生まれなかった。生まれそうな気配もなかった。今後の選択肢は3つ。彼らの復帰、復調を待つか、代役を見つけるか、それとも、新たな化学反応を模索するか――。
悩ましいのは、どの道を選ぶにせよ、オーバーエージ枠の選考は何かを諦める形になってしまうこと。わたしだったら、当分答えは出せそうにない。
<この原稿は20年10月15日付「スポーツニッポン」に掲載されています>