今だったら大騒ぎだろうなあ。

 

「東京で78年W杯決勝が再現される!」と聞いたので、昼食代を削ってチケット代をひねり出した。会場は後楽園球場。「は?」と思わないこともなかったが、生ケンペス、生ニースケンスが見られるならどうでもいい。こんな機会は一生に一度と思ったので、確か、一番高い席のチケットを買った記憶がある。

 

 何があったのかは知らないし知りたくもない。結論からいうと、アルゼンチン代表もオランダ代表も来日しなかった。代わりにやって来たのは、スペインのバレンシアと、オランダのFCアムステルダム、あと、アルゼンチンのウラカン。これに、日本リーグのスターを集めた日本リーグ選抜を合わせ、予定通りの日時と会場で試合を行うという。

 

 あとから聞いた話だと、主催者側は払い戻しにも応じていたそうだが、そんな知恵、ローティーンの小僧にあるわけがない。幸い、ケンペスだけはバレンシアの一員として来日することが決まった。釈然としない思いを抱きつつ、水道橋の後楽園球場に生まれて初めて足を踏み入れた。

 

 そしたら、これが大当たり。

 

 ケンペスの出た第2試合、バレンシア対ウラカンも面白かった。なにしろ4-3。親善試合でありながら、あわや乱闘といったシーンも見られるなど、ダイヤモンド・サッカーでしか本場の試合を観たことがない人間としては大満足だった。

 

 だが、それ以上に面白かったのは、まるで期待していなかった前座試合、日本リーグ選抜対FCアムステルダムだった。

 

 集まったファンへのせめてもの贖罪のつもりなのか、オランダ代表とまったく同じジャージーで姿を現したアムステルダムを、ジョージ与那嶺やラモスといった読売クラブ勢に大砲・釜本を擁した日本リーグ選抜は圧倒した。試合途中、おそらくはナメきっていたであろうアムステルダムの選手を軽妙なパスワークとドリブルで激昂させるなど、プロのプライドをズタズタに切り裂いての勝利だった。

 

 日本のアマチュアがプロを倒したのにも驚いたが、それ以上にびっくりしたのは、その内容だった。完全な寄せ集めチームのはずなのに、まあ壁パスが通るわ通るわ。しかも、ブラジル人しかできないと思っていたパスワークの中に、ちゃんと釜本御大が組み込まれ、かつ、リターンの代わりに右足を反転鋭く振り抜き、先制点まで奪ってしまったのだ。

 

 考えてみれば、スルーパスには成熟が必要。出す側と受ける側で高度な意思の疎通が必要だから。その点、壁パスは即興がきくというか、パス&ゴーの基本を守るだけで成立する。寄せ集めの選抜チームにはぴったりのスタイルだったわけだ。

 

 そういえば、その後観た数多ある選抜チームも、基本的には壁パス重視だった気がする。

 

 というわけで、9日のカメルーン戦。成熟したサッカーは到底期待できないとくれば、頼りになるのは選手たちのアドリブ力。願わくば、五輪世代による壁パスに次ぐ壁パスとゴールラッシュ、見てみたい。

 

<この原稿は20年10月8日付「スポーツニッポン」に掲載されています>


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