秋も深まったこの頃、ペナントレースも大詰めです。セ・リーグは巨人の優勝が秒読み、混戦だったパ・リーグも22日時点で、首位・福岡ソフトバンクがマジック6。今季はパ・リーグだけが特別規則(1位対2位、4戦3勝制)でクライマックスシリーズ(CS)を実施します。今回は気になるポストシーズンゲームを中心にお話しましょう。

 

 シュートピッチャーで鷹狩り!?

 先月の段階ではソフトバンクと千葉ロッテが一騎打ちの様相を呈していましたが、ロッテはまさかのコロナ集団感染により11人の選手の入れ替えという異例の事態が勃発しました。2軍から上がってきた選手はよくやっていますが、それでも戦力ダウンは否めません。反対にソフトバンクはここにきて11連勝(22日時点)と、やはり地力の差を見せつけた印象です。

 

 なぜソフトバンクが強いのか? これは選手個々がやる仕事をわかっている、それに尽きるでしょう。川瀬晃や牧原大成といった打率は低いものの、ここぞというときにきっちりと仕事をする選手がいる。そういうチームは強いものです。その意味では埼玉西武も同じようなチームカラーを持っています。東北楽天を抜き、Aクラスに上がってきたのもそれが理由でしょう。

 

 コーチ時代に経験がありますが、実は追われる者のプレッシャーは相当なものです。コーチ室のホワイトボードには、シーズン終盤になると雨天中止で延期になっていた日程が埋まっていきます。そこに相手のローテーション投手を記入していくのですが、「ここは伊良部(秀輝)、こっちは野茂(英雄)かぁ。マジックはついたものの勝てるんかいな」と不安になったものです。下位チームとはいえエース級ピッチャーはいますから、それと当たるのはイヤなもんなんですよ。取りこぼしたら大変ですから。

 

 でも、実際に戦うとチームとして目指すところが違う、目標や意識の差もあり、勝てるんです。強いチーム、常勝軍団というのは選手全員が優勝慣れしているし、プレッシャーの中でもやることをわかっている。それが強みですね。

 

 ではCSはどうなるのか。今季は4戦3勝制ですから例年以上に超短期決戦、初戦が重要です。アドバンテージのある1位チームは勝てばリーチ、2位チームが勝てば五分に戻せます。ソフトバンクVを前提に話を進めますが、ロッテはCS初戦、先発は美馬学を持ってくるでしょう。チームの勝ち頭で(7勝)、ソフトバンクにも4勝1敗と相性が良い。

 

 美馬は楽天時代からソフトバンクには強く、それは彼のようなシュートピッチャーをソフトバンク打線が苦手としているからです。当時は内川聖一ら右打者が揃っていましたから尚のことでした。今のソフトバンクは柳田悠岐、周東佑京など主力は左打者ですが、それでも美馬を苦手としている。169センチとプロ野球の投手としては小柄な美馬だから、ボールの出どころが見にくいというのもあるのかもしれません。いずれにしてもCS初戦、美馬で勝って五分に戻せば、ロッテの日本シリーズ進出も一気に現実味を帯びます。11月14日のパ・リーグCS初戦は見逃せない1戦になるでしょう。

 

 さて、終盤まで熱い戦いの続くパ・リーグに対し、セ・リーグはといえば……。中日が10月に入って13勝4敗と良い戦いをしています。最初からやっておけよ(笑)という感じですが、ロースコアゲームをきっちりとものにしているあたり、今、セ・リーグで一番強いチームかもしれません。

 

 与田中日は初回から送りバントをするなど、とにかく手堅い野球です。ナゴヤドームはホームランが出にくく、その特性を理解した上での手堅い采配ですね。ピッチャー出身の与田剛監督を作戦面で支える、伊東勤ヘッドコーチの手腕が存分に発揮されている感じです。

 

 伊東ヘッドは3ボール・ノーストライク(ノースリー)の場面で、送りバントを仕掛けることもあります。ノースリーはセオリーならば「待て」ですが、だからこそバッテリーにも油断が出る。スーッとストレートでストライクをとりにくるし、ランナーに対する警戒も緩くなる。だから確実に送るなら犠打のサイン、仕掛けるなら盗塁をさせても面白い。待てのサインで3ボール1ストライクになり、そこで犠打やエンドランを仕掛けファウルになったらフルカウントです。それを考えればノースリーで仕掛けた方が確実です。まあ、いつもいつもというわけにはいきませんが、そういう相手心理の裏を突く、そういう探りを入れられるのは、さすが黄金期西武を支えたキャッチャーですね。

 

 名捕手と呼ばれる選手は本当に裏をかくのがうまい。オリックスとヤクルトが戦った日本シリーズでキャッチャーの古田敦也は対イチローではピッチャーに高めばかりを要求した。普通ならゴロを打たせるために低めですが、イチローは低めを拾うのがとてもうまい。逆に高めはヘタとは言いませんが、高めを軽打するのは案外難しいんです。普通はゴロで打ち取るところを、古田は高めでポップフライに打ち取っていました。あのリードは「さすが!」と唸りましたね。

 

 さて、最後にオリックス太田椋のケガについて触れておきましょう。9月25日の北海道日本ハム戦で、走塁中にサードのクリスチャン・ビヤヌエバと接触し、肋骨を骨折しました。今季はホームランも打ち、スタメン起用もされていただけに残念です。厳しいけれど、これは「喝!」を入れさせてもらいます。

 

 太田はショートやセカンドを守り、要は目配せが必要なポジションです。常に周囲の状況に気を配ることが求められますから、ああいう風に走塁中に野手と接触というのは……。まだプレーに余裕がなく、視野が狭くなっているのも原因でしょう。早く復帰してほしいものです。せっかく遠くに飛ばす能力は非凡なものがあるんですから、ケガで休むのは本当にもったいないですよ……。

 

 

<鈴木康友(すずき・やすとも)プロフィール>
1959年7月6日、奈良県出身。天理高では大型ショートとして鳴らし甲子園に4度出場。早稲田大学への進学が内定していたが、77年秋のドラフトで巨人が5位指名。長嶋茂雄監督(当時)が直接、説得に乗り出し、その熱意に打たれてプロ入りを決意。5年目の82年から一軍に定着し、内野のユーティリティプレーヤーとして活躍。その後、西武、中日に移籍し、90年シーズン途中に再び西武へ。92年に現役引退。その後、西武、巨人、オリックスのコーチに就任。05年より茨城ゴールデンゴールズでコーチ、07年、BCリーグ・富山の初代監督を務めた。10年~11年は埼玉西武、12年~14年は東北楽天、15年~16年は福岡ソフトバンクでコーチ。17年、四国アイランドリーグplus徳島の野手コーチを務め、独立リーグ日本一に輝いた。同年夏、血液の難病・骨髄異形成症候群と診断され、徳島を退団後に治療に専念。臍帯血移植などを受け、経過も良好。18年秋に医師から仕事の再開を許可された。18年10月から立教新座高(埼玉)の野球部臨時コーチを務める。NPBでは選手、コーチとしてリーグ優勝14回、日本一に7度輝いている。19年6月に開始したTwitter(@Yasutomo_76)も絶賛つぶやき中。2020年東京五輪(1年延期)の聖火ランナー(奈良県)でもある。


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