ANAホールディングスが、21年3月期決算で純損益が過去最大となる5100億円の赤字になる見通しを発表した。

 

 全日空がエラいことになったということは、当然、日本航空も大変だろうし、世界中の同業他社も似たりよったりのはず。というか、赤字を嘆いていられる航空会社は、倒産の危機に直面している会社に比べればまだマシな方なのかもしれない。

 

 未だ収まらないコロナ禍は、確実に世界のあちこちの経済を蝕んでいる。

 

 そして、お金の流れを滞らせているのはウイルスだけではない。

 

 中国人の富豪番付で1位になったこともある資産家が「中国企業が金儲けをしにいく時代に入った」と断言したという。経済成長に陰りが出てきたことに加えて、緊張の度合いを高めつつある米国との対立。21世紀に入り、世界経済の推進役を務めてきた中国の役割は、今後、少しずつ変わっていく可能性がある。

 

 う~ん。

 

 20世紀も最終盤に入ったあたりから、欧州のクラブが選手に支払うギャラの額は、爆発的に増えた。92年当時、世界中が垂涎の思いで眺めていたJリーグのサラリーは瞬く間に魅力を失い、国によっては下部リーグの選手であっても億をはるかに超える額を稼げる時代になった。

 

 その象徴的な存在となったのがイングランドだったが、単純にGDPだけを比較するならば、英国は日本よりもずいぶんと小さい。それでも彼らが巨額の資金を投じることができたのには、日本にはない太い金づるを3本ほど見つけたからだった。

 

 1本目は、オイルマネー。中東だったりロシアだったりと出自はさまざまだが、これで一発当てた外国企業がプレミアを活性化させた。

 

 これに続いたのがITマネー。いわゆるオンライン・カジノもこれに含まれていいだろう。

 

 そしてここ10年で急速に増えたのがアジア・マネー、チャイナ・マネーだった。

 

 世界中の航空会社が厳しい状況にある中、エティハド航空やエミレーツ航空だけがウハウハな状況にあるとは考えにくい。コロナ禍による移動機会の減少により、原油自体の需要も落ち込むことも予想されている。

 

 加えて中国企業に一頃の勢いがなくなってくるとなれば……さて、誰が選手たちの膨大なギャラを支えるのだろう。

 

 信じがたいことに、今年、日本は何十年ぶりかに欧州CLをライブで観戦できない国の一つになった。DAZNからは何の説明も発表もないが、おそらくは放映権料の折り合いがつかなかったのだろう。だが、「支払えないなら諦めな」という傲慢な商売のスタイルが通用する時代は、おそらく、終焉の時期にさしかかっている。

 

 その恩恵に浴した記憶はほとんどないが、バブルの時代を生きた日本人の一人として言えるのは、あのころ、自分たちがバブルの中にあることを自覚している人間は皆無だったということ。

 

 資金源に暗雲が立ち込め、かつ観客収入が見込めない状況の欧州は、いつまで現在の給与体系を維持できるのか。バブルが弾けても日本は滅びなかったように、サッカーが滅ぶとは思わない。ただ、いまとは違う日常が訪れる可能性は、高い。

 

<この原稿は20年10月29日付「スポーツニッポン」に掲載されています>


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