二宮 山田選手は日本リーグで、首位打者をはじめ多くのタイトルを獲得しています。通算打率は今シーズンの開幕時点で三割九分。打ち損じがほとんどないような気がします。苦手なピッチャーはいるんですか。

山田 打ち取られたという感覚はあまりないのですが、簡単には打てないピッチャーはたくさんいます。

 

<この原稿は「第三文明」2016年11月号に掲載されたものです>

 

二宮 日本代表のエース上野投手は、敵として戦った場合はどうですか。

山田 打てたらラッキーと思うほどすごいピッチャーです。コントロールもスピードもあって、変化球も鋭い。やはり簡単には打たせてくれません。私は世界一のピッチャーだと思います。

 

二宮 ソフトボールは、マウンドからホームベースまでの距離が短い(13・11メートル。野球は18・44メートル)ですから、体感速度はかなり速いでしょうね。

山田 アッという間に届きます。野球でいえば時速160キロくらいの体感速度だといわれています。それにライズやドロップなど変化球もあるので、レベルの高いピッチャーを相手にするときは、球種をある程度絞り込まないと打てないです。

 

二宮 そのなかで山田選手は、通算安打や通算打点で歴代1位。ほかにも数々の記録を塗り替えられてきたわけですが、ソフトボールを始めて17年、極めた感じはありますか。

山田 極めたと思ったら、もうやめていると思います。現に、今もバッティングフォームを変えているところですから。

 

二宮 年齢に合ったフォームということですか。

山田 年齢というより、今の感覚ですね。そのときの感覚に合わせて、構えの高さを変えたり、スタンスをオープンにしたり、真っすぐにしたりしています。

 

二宮 イチロー選手と一緒ですね。山田選手は、そのバッティングセンスや実績から「女イチロー」と呼ばれています。実際、イチロー選手を参考にしているのでしょうか。

山田 はい。スイングをするときにどうやって後ろ足を回しているかとか、打ちに行ったときの肩の角度や構え、背筋の伸び方など、細かくチェックしています。

 

二宮 そのイチロー選手が、先日(8月8日)メジャー通算3000本安打を達成しました。走・攻・守すべてに42歳とは思えないレベルを維持しています。イチロー選手の活躍には触発されるのでは?

山田 影響は大きいですね。プレーはもちろんですが、特に野球に対する考え方ですね。すべてをプラスに捉えるし、誰に何を言われようが自分の信じたことを貫き通す姿勢は、もっと見習っていきたいです。

 

ソフトボールを世界に広めたい

 

二宮 少し気の早い話かもしれませんが、東京五輪以降については、ご自身のなかではどのように考えていますか。

山田 自分が選手として出場することはないと思っています。

 

二宮 先ほどもおっしゃっていましたが、やはり東京が集大成だと?

山田 はい。選手としての自分は東京で終えて、そこからはソフトボールを世界に広める活動ができたらいいなと思っています。ソフトボールを今後も五輪の正式種目として認めてもらうためには、やはり競技をもっとメジャーなものにしないといけない。その役に立ちたいんです。

 

二宮 素晴らしい夢ですね。ほかの競技であれば、五輪を夢見て4年先、8年先を考えて頑張れますが、それがあるのかないのか、それすらわからないというのは、若い選手にもかわいそうです。競技の世界的な普及という意味では、野球やソフトボールは用具も必要ですし、ルールが複雑なのもネックですね。

山田 確かにルールは複雑かもしれませんね。

 

二宮 アテネ五輪を取材した際に「タッチアップって何だ?」と外国人に聞かれたのですが、説明するのが意外と難しい(苦笑)。「フライを取られたらアウトなのに、どうしてランナーは進塁していいんだ?」と問われると、返事に困ります。

山田 「そういうルールだから」としか言いようがないですもんね(苦笑)。

 

 後輩を引っ張っていく立場

 

二宮 リオ五輪が終わり、東京五輪への道のりが始まりましたが、これからの4年間の計画は?

山田 ここ3年ほど毎年ケガをしているので、コンディションの維持をいちばんに考えたいと思います。技術面については、先ほども話したように衰えを感じていないのですが、体力面はいろいろ見直していかないといけませんから。ただ、そこはトレーニングの仕方などでいくらでもカバーできるのではないかと思っています。維持するというよりは、むしろ上げるぐらいの気持ちで考えています。

 

二宮 北京五輪で主将をされましたが、当時はまだ先輩たちも多かった。そういう意味では、東京五輪に向けて後輩たちを引っ張っていく立場にもなりますね。若い選手と接するうえで何か意識していることはありますか。 

山田 一人一人の考え方や性格の違いを理解したうえで、アドバイスするように心がけています。

 

二宮 宇津木監督にビシビシやられた世代ではないですからね(苦笑)。

山田 今、宇津木さんに怒られたら、みんな泣いちゃうかもしれません(笑)。でも、プレッシャーや責任は“背負うべき者”が背負うものだと思っているので。私が若いときに、斎藤春香さんや宇津木麗華さんたちが背負ってくれたものを、今度は自分が背負う番です。若い選手は、伸び伸びとプレーしてくれればそれでいいんです。

 

二宮 力強い言葉ですね。東京五輪での金メダルを目指すうえでは、上野投手の復活も欠かせませんね。上野さんが投げて山田さんが打つという光景を、みんなが見たいと思っているでしょう。

山田 上野さんの後ろで守っていると全然違うんですよ。“打たれない”という安心感があります。ストレートの調子が悪ければ違う球種で攻めるし、バッターの特性に合わせてどこを攻めるか瞬時に判断できる。すごいピッチャーです。

 

二宮 春先のケガが長引いていたので心配でしたが、先日(9月10日)前人未到の200勝を達成しました。連覇のかかる東京五輪は、他国からのマークも厳しくなりそうですね。

山田 それはあると思います。現に、今の国際試合では、バントやエンドランなど小技のバリエーションが増えていますから。

 

二宮 日本のソフトボールのような細かさを取り入れているということでしょうか。

山田 そうです。小技だけでなく、小柄な日本人がボールを遠くに飛ばすのにどういう技術を使っているか、そういう部分を世界が研究して取り入れているんです。

 

二宮 熾烈な戦いになりそうですね。東京五輪のソフトボールがますます楽しみになりました。

山田 実は東京五輪の開会式が行われる7月24日は、2年前に亡くなった父の命日なんですよ。

 

二宮 何か運命的なものを感じますね。

山田 父が「頑張れ!」と言ってくれているように思います。

 

二宮 がぜん気合いが入りますね。4年といえば長く聞こえますが、長いようで短いですから、どうか体に気をつけて頑張ってください。

山田 ありがとうございます。金メダルを目指して頑張ります!


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