自爆だな、こりゃ。

 

 ロモのシュートを吉田が頭で弾き出したのが後半10分のこと。それまで、メキシコにチャンスらしいチャンスは一度もなく、これが彼らがつかんだ初めての決定機だった。それまでの55分間は、立ち上がりの10分を除いて完全な日本ペース。

 

 ただ、力の拮抗した試合では、一度の決定機で流れが大きく動くことがある。前半、主導権を握られかけた日本が状況を好転させるきっかけとなったのも、鎌田の鮮やかなサイドチェンジを受けた原口の素晴らしいミドルだった。

 

 だから、ロモにあわやのシュートを打たれた時点で、流れは変わる可能性があった。半面、それまでの流れの太さを考えれば、シュートが単なる徒花で終わる可能性もあった。いわば、ここが試合の分水嶺。

 

 すると、ここで森保監督は2人の選手を交代させた。おそらく、試合前から考えていた起用だったはず。鈴木に代えて南野、柴崎に代えて橋本。結果的に、この交代が最悪の悪手となった。

 

 パナマ戦では柴崎と橋本の組み合わせがいまひとつだった。柴崎と遠藤の関係が上手くいくこともわかった。おそらく、森保監督は遠藤と橋本の組み合わせも試しておきたかったのだろう。

 

 だが、メキシコの選手交代が日本を攻略するためになされたものだったのに対し、森保監督のこの交代に対戦相手の状況は考慮されていなかった。本気モードの采配に対する試運転の采配。分水嶺で打たれた悪手によって流れは一気にメキシコへと傾き、それを立て直す手だては、もはやなかった。

 

 もちろん、公式戦であれば、森保監督もこんな交代は断じてしなかったことだろう。ただ、メキシコのような強豪と戦う機会がそうないことを考えれば、ここは徹底して勝負にこだわってほしかった。決定機をモノにできなかった鈴木の交代はともかく、試合を支配する主たる要因になっていた中盤のコンビを分解したのはいただけなかった。

 

 続く原口、鎌田の交代には、正直、絶句した。はて、前半の決定機をつくり出していたのは誰だったのか。この交代により、日本の力はさらに削がれただけでなく、交代で投入された久保の評価と期待値も大きく損なわれた。

 

 はあ、もったいない。

 

 前半のメキシコは、明らかに日本を知らなかった。無理もない。この日の日本はパナマ戦から9人もメンバーを入れ替えてきたのだから。で、まっさらな状態での対決でメキシコは押し込まれ、後半、やり方を変えた。プレーの強度も高めた。この、「後半に入ってやり方を変えた」という部分に敗因を見出す人は多いだろうが、やり方を変えてから10分間、依然としてメキシコは日本を押し込めずにいた。

 

 あのまま、ガチなメキシコとベストの日本のぶつかりあいが見たかった。

 

 メキシコのタタ・マルティーノ監督は「前半の20分間ぐらいは、わたしが就任して最悪の時間帯だった」と語ったという。そこまで追い込んだ試合を、日本は自分で捨ててしまった。いくらテストマッチといえども、勝負に直結しない手は打つべきではないし、いや、あれは勝負手だったというのであれば、それも大問題。代表戦は年内これが最後? イヤな余韻が選手の間に残らなければいいのだけれど。

 

<この原稿は20年11月19日付「スポーツニッポン」に掲載されています>


◎バックナンバーはこちらから