1日からキャンプが始まり、いよいよBCリーグも本格的に始動しました。石川ミリオンスターズは現在、石川県白山市に新しくつくられた室内練習場を中心に実戦形式のトレーニングが行なわれています。
 昨季、優勝したとはいえ、私たちに驕りの気持ちなど全くありません。全ての面において石川が他の3球団を上回っていたかというと、そうではないからです。シーズン終了後、既に次のシーズンに向けて考え始めていた金森栄治監督から特に指摘されたのが体力面でした。例えばバッティング一つとってもそうです。選手は皆、基本に忠実なバッティングをしていたにもかかわらず、長打率は4球団の中でも最も低かった。これは体力のなさからくるパワー不足です。ですから、どれだけ体力強化を図ることができるかが、チームのまず最初にクリアしなければならない課題でした。

 そこでシーズン終了後の11月から2月までほぼ全員が県内に残り、金沢市内にある安原スポーツ広場で主に基礎体力の強化トレーニングを行なってきました。時には厳しい寒さの中、海岸でランニングをすることもありました。そのおかげで投手陣は皆、下半身ががっちりしてきました。特に2年目を迎える投手の中にはシーズンを通して鍛えられたこともあり、体重が5キロ増えた選手もいます。1日からはキャンプが始まりましたが、その成果が早速表れ、全体的に投手陣のコントロールが安定している印象を受けています。

 また、石川が恵まれていたのは、オフ期間の選手の職場が皆、同じだったということです。選手たちが働いていたのはスポンサー企業でもある物流会社「ACTY」。全員が同じ場所から同じ時間に移動するので、練習にも集まりやすかったのです。また、練習時間がたっぷり取れるようにと勤務時間は8時から15時にしてもらっていました。

 さらに、ACTYさんからは配送センター内にあった空き倉庫を球団専用の室内練習場に改造していただきました。総面積約900平方メートルの練習場にはブルペンのほか、打撃練習場、守備練習場、1周100メートルのランニングスペースがあります。積雪の多い土地柄、専用の室内練習場があるのとないのとでは大違い。立派な施設を提供していただいたACTYさんには球団一同、感謝するとともに、より一層頑張らなくてはいけないと思っています。

 石川初のNPB経験者

 さて、新人選手の中には石川で初めてのNPB経験者が入団しました。元巨人の南和彰、26歳です。兵庫県出身の南は神港学園高校から福井工業大学に進学。北陸大学野球リーグで24連勝の快挙を成し遂げ、通算32勝を挙げました。2004年、ドラフト8巡目で巨人に入団しましたが、1軍登板は3年間でわずか2試合のみ。1勝も挙げられないまま、06年オフに戦力外通告を言い渡されました。しかし、昨季は米国の独立リーグ・カルガリーバイパーズでプレーし、チーム最多の11勝(5敗)をマーク。チーム最優秀投手賞にも選ばれています。

 実際に彼のピッチングを見ると、意外にもフォームがコンパクトにまとめられていて、なかなかのコントロールの持ち主です。最速152キロのストレートに加え、米国で習得した3種類のチェンジアップに自信を持っています。そのほか、カーブ、スライダー、フォークなど変化球も多彩です。まだキャンプが始まったばかりで本人も100%の力を出していませんから、はっきりしたことは言えませんが、ぜひ先発の一角を担ってほしいと期待を寄せています。

 また、3年とはいえ、NPBでの経験をもつ南が入ったことで、チームへの影響は大きいでしょうね。特に投手陣にはプロとしての厳しさやトレーニング方法などをどんどん吸収していってほしいと思っています。プロで活躍するには素質だけでなく、研究や創意工夫が不可欠です。彼もまた、全く1軍に上がれなくなったプロ2年目の時に「このままではダメだ」と思い、知人にアドバイスを請うたり、体の使い方やトレーニングの方法など、さまざまな本を読んで勉強したそうです。そうした自らの経験を基に、南には他の選手のアドバイザー的存在になってほしいのです。

 もちろん、私もコーチとして指導するわけですが、同じ選手同士、チームメイトの南が伝えることによって、他の選手にはより刺激が与えられるのではないかと考えています。幸い関西出身の南は性格も明るく、人あたりもいい。キャンプでも自分から年下の選手に積極的に話しかけてくれています。技術的にも精神的にもプロ意識が高まり、チームのレベルアップにつながればと期待しています。

 さて、今季は4月19日に開幕します。石川はいきなり昨季、最後まで優勝争いを繰り広げた相手、富山サンダーバーズとの2連戦でスタートします。昨季の富山は豪快な打線が自慢のチームでしたが、果たして今季はどんなチームに生まれ変わっているのでしょうか。いずれにしても、我々としては昨季同様、“正しい練習、プレーをやれば必ず結果がついてくる”ことを信じ、戦っていきたいと思っています。

長冨浩志(ながどみ・ひろし)プロフィール>:石川ミリオンスターズコーチ
1961年6月10日、千葉県出身。千葉日本大学第一高卒業後、国士舘大、NTT関東を経て86年、ドラフト1位で広島に入団。1年目から2ケタ勝利をあげてリーグ優勝に貢献し、新人王に輝いた。MAX150キロのストレートを武器とする本格派右腕として、その後も広島の投手陣の要として活躍。95年に日本ハムにトレード移籍し、技巧派リリーフ投手に転じた。98年にダイエー(現ソフトバンク)に移籍し、2連覇に貢献。2002年に現役引退。ダイエー、ソフトバンクコーチを経て、07年にから石川ミリオンスターズのコーチに就任した。


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 今回は石川・長冨浩志コーチのコラムです。「先発候補の新人・南&山崎」。ぜひ携帯サイトもあわせてお楽しみください。
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