縁あって、今季から富山サンダーバーズのコーチに就任した小牧雄一です。私は昨年までの2年間、同じ独立リーグの四国アイランドリーグ(現、四国・九州アイランドリーグ)の高知ファイティングドッグスでコーチを務めていました。しかし、球団のオーナーが交代したことによって、僕を含めた監督・コーチ3人全員が解雇されてしまいました。そこへ僕を富山に誘ってくれたのが鈴木康友監督でした。
 マスターズリーグの試合に出場した際、同じ札幌アンビシャスのメンバーの鈴木監督が「うちのチームのコーチにならないか」と声を掛けてくれたのです。しかし、実はその時、今季からアイランドリーグに加入する長崎セインツなど、富山以外のチームからも声を掛けてもらっていました。
 その中で富山に決めたのは鈴木監督が熱心に誘ってくれたこと。そして、どこよりも僕を必要してくれているチームだと感じたからです。

 富山は初年度の昨季、石川ミリオンスターズと最後の最後まで激しい優勝争いを繰り広げた末に敗れ、2位という結果に終わりました。聞けば、他の3球団が4点台の1試合平均得点は7点台。8月26日の新潟アルビレックス戦では最高の25得点を挙げたというではありませんか。まさに打線はリーグトップの力を持っているチームです。

 しかし、それでも優勝できなかったのはやはり、守備力が不足していたからだと鈴木監督は分析したようです。そこで白羽の矢が立ったのが僕だったというわけです。
「うちは打つ方では自信があるが、守備がまだまだできていない。コーチになって、チームを鍛えてほしい」
 この鈴木監督の言葉で僕は富山のコーチに就任することを決めたのです。

 さて、高知での2年間ではさまざまなことを学びました。その一つに、独立リーグでは選手のレベルに合わせて指導することが何より大事だということが挙げられます。

 ある程度素質を開花させ、その片鱗が見えた選手はNPBや大学進学、社会人へと進みます。独立リーグには、そこから漏れた選手たちが来るわけです。そのため、「こんなことくらい、わかっているだろう」と思うことが、理解されていないことも数多くあるのです。

 キャッチャーで言えば、ボールの捕球の仕方、スローイングの仕方といった、まさに基本中の基本が身に付いていない選手がほとんどといっていいでしょう。そのため、一つ一つ丁寧に根気よく教えていくことが不可欠です。

 独立リーグの選手にもいい素質を持った選手はたくさんいますから、こうした基本をきちんと教え込むことによって、選手たちはぐんぐん成長していきます。しかし、そのためにも指導者は辛抱強くなくてはならないのです。

 そして、もう一つ、僕が大事にしているものがあります。それは選手とのコミュニケーションです。なぜなら、指導者と選手との間に信頼関係なくしてチームは強くならないからです。

 僕は選手の練習にもとことん付き合います。例えば全体練習後でも、「練習を見てくれませんか?」と言われれば、夜間練習にも何時まででも付き合います(高知では夜中の12時を過ぎたこともありました)。また、試合でいい結果を残せなかった選手に相談されれば、選手が納得するまでその原因を追究し、次はどうすればいいのかを話し合います。これまでもそうすることで選手は私を信頼してくれ、良好な関係を築いてきました。

 とはいえ、性格は選手それぞれ全く違います。ほめて伸びる選手、叱って伸びる選手……とまさに十人十色。ですから、まずは富山の選手たちを知ることから始めたいと思っています。

 富山では初めてのシーズンとなるわけですが、今季の目標は3つあります。一つは言うまでもなく、昨季果たせなかったチャンピオンの座を掴むこと。そして、多くの人に試合を観てもらい、BCリーグの理念でもある地域密着化を図ること。そして、NPBのドラフトに指名される選手を一人でも多く出すことです。

 高知では僕がコーチを務め始めた一昨年からドラフトで指名されるようになり、2年間で4人の選手(うち育成枠2人)をNPBに送り出しました。BCリーグでも昨季、石川の内村賢介が東北楽天に育成選手として指名されましたね。今季はぜひ、BCリーグ初の支配下登録選手としての指名選手を富山から出したいと思っています。


小牧雄一(こまき・ゆういち)プロフィール>
1967年5月2日、鹿児島県出身。鹿児島商卒業後、三菱自動車水島を経て91年にドラフト5位で日本ハムに入団。出場機会に恵まれなかったことから、2000年オフに退団。西武の入団テストに合格し移籍した。03年のシーズン限りで現役を引退し、翌年同球団のチームスタッフに就任。05年からは四国アイランドリーグの高知ファイティングドッグスのコーチを務め、08年より富山サンダーバーズのコーチに就任した。

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 今回は富山・小牧雄一コーチのコラムです。「廣田よ、投手を信用するな!」。ぜひ携帯サイトもあわせてお楽しみください。
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