31日、ボクシングのWBO世界スーパーフライ級タイトルマッチが東京・大田区総合体育館で行われ、王者の井岡一翔(Ambition)が同級1位の指名挑戦者・田中恒成(畑中)を8ラウンド1分35秒TKOで下した。4階級制覇王者の井岡は2度目の王座防衛。スーパーフライ級の田中はプロ16戦目に初の黒星を喫し、井岡に並ぶ4階級制覇はならなかった。

 

 試合前から「格の違い、レベルの違いを見せる」と語っていた井岡が、自身を上回る16戦目でのスピード4階級制覇を狙う田中の挑戦を退けた。

 

 1ラウンドは田中が距離を詰め、井岡がそれをいなすような展開を見せた。井岡はジャブで自らの距離を保とうとする。田中がスピードを上げ、連打を繰り出してもステップやガードを駆使してクリーンヒットを許さなかった。

 

「どんな展開になっても上回っている自信があった」と振り返ったように、リング上での井岡からは焦りが見られなかった。「最初から相手に合わせず、ポジション取りを意識した。自然とラウンドを重ねるごとにハマッていると感じた」。田中の伸びのあるストレートが顔面を襲う場面があり、ロープ際に追い込まれることもあったが、井岡が窮地に追い込まれている様子はなかった。

 

 5ラウンドから徐々にプレスをかけ、田中を追い込む。ジャブの刺し合いで主導権を握らんとする両者。このラウンド終了間際に試合は動いた。井岡はロープを背にしながらも、コンパクトに左フックを田中の顔面に叩き込んだ。カウンターを食った田中はダウン。なんとか立ち上がった田中はすぐにラウンド終了のゴングを聞いた。

 

 6ラウンドも井岡の優位は動かない。序盤は攻勢を仕掛けるが、その後は無理に距離を詰めたりせず、絶妙な距離感で試合を運ぶ。田中を手玉に取っているようにすら見えた。再びカウンターの左フックでダウンを奪う。倒れた田中を見下ろす井岡。リング上でも「格の違い」をアピールする。

 

 前に出て倒しにいくしかない田中に対し、井岡は最後まで冷静だった。8ラウンドの半分が過ぎたあたりで、井岡の左フックが炸裂。2人の間にレフェリーが割って入り、試合を止めた。1分35秒TKO勝ち。大晦日の夜にKO勝利の鐘を鳴り響かせた。

 

「僕からしたらサプライズな試合ではない」

 涼しい顔で井岡は言い放った。「『格の違いを見せる』と言い続けてきた。男として口だけでは終わるわけにはいかない」。日本人唯一の4階級制覇王者の意地を見せたかたちだ。

「ここで4階級制覇をさせてはいけないと思っていた。まだ若い選手に負けずトップに君臨していけるという気持ちもある」

 

「世代交代する」と意気込んでいた田中だが、試合後には「こんなに差があるとは……」と肩を落とした。本人も口にしたように「完敗」だった。井岡は「彼はこれからの選手。今後のボクシング界を引っ張っていく」と称えたものの、慰めにはなるまい。ここから這い上がるには自らの拳で評価を取り返すしかない。

 

「前回と今回、指名挑戦者に勝った。統一戦をしたい」と井岡。来年3月にアメリカで行われる予定のWBA・WBC世界スーパーフライ級王座統一戦勝者との対戦を希望した。WBA王者のローマン・ゴンサレス(ニカラグア)vs.WBC王者のファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)。3団体統一に挑む算段だ。

 

(文・写真/杉浦泰介)