長崎セインツの監督をしています河埜です。これから、よろしくお願いします。
 1月31日のキャンプイン前日。実は全選手を前にした瞬間、不安が頭をよぎりました。
「本当にシーズンを戦えるのかな……」

 なぜなら、選手たちの体を見ると明らかに自主トレ不足の者が多かったからです。特に分配ドラフト等で四国の各球団から移籍した選手が、ベストとは程遠い体つきをしていたのはショックでした。おそらく、長崎なら試合に出られるだろうといった甘えがあったのでしょう。彼らには新人選手にリーグの厳しさを伝える立場になってほしかっただけに、とても残念に感じました。

「ここでダメなら、よそのチームやリーグに行ってもダメだ。そんな甘い考えのヤツはいらない。長崎が野球人生最後の場だと思って取り組んでほしい」
 プロ野球に携わる人間は、クビになった時ほどつらいものはありません。「もう少しやっておけば……」と、後になって後悔しても遅いのです。新チームでの最初の仕事は選手の意識改革。その思いを強くして、キャンプに入りました。

 まず、選手には野球ノートを1人1冊持たせました。グラウンドで教わったこと、ミーティングの内容、自分なりに気づき、考えたこと……。内容は何でもかまいません。とにかく、選手たちには書く習慣を身につけてほしいと考えています。

 僕が南海に入団した時、監督はプレーイングマネジャーの野村克也(現楽天監督)さんでした。野村監督の求める頭を使った細かい野球を実践するため、僕はずっとノートをつけていました。今になって読み返してみると、字の様子から当時の感情もわかりますし、何より勝つためには何が大切か、自分には何が足りないのか、といったことを改めて学ぶことができます。

 せっかく1つのことを習っても、ノートに残していなければ次の日には忘れてしまいます。これでは進歩はありません。そして、たとえ指導者になったり、野球の道を離れたりすることがあっても、何かの機会にノートを開けば、きっと得るものがあるはずです。僕も、書き留めていた野村監督の教えが今になって随分と役立っています。

「人は他人の評価で価値が決まる」
 野村監督はこんなことを言っています。いくら自分が一生懸命やっているつもりでも、周囲が認めてくれなければ、それは単なる自己満足です。「オレは打つのが得意」「守備なら大丈夫」と本人が感じていても、他人はそう思っていないかもしれません。
 
 僕は選手たちに、ノートで自己分析するだけでなく、他人の意見を聞くように伝えています。その目的は他人がどうみているかを知ることがひとつ。もうひとつは互いにアドバイスし合うことで、教わったほうはもちろん、教えるほうもより理解を深めるためです。こちらも選手たちとコミュニケーションをとりながら、彼らと一緒に成長したいと思っています。

 こうしてプロとしての心構えを徹底した2月が過ぎ、ようやくチームは「戦う集団」になってきました。今後は実戦の中で、いかに細かい野球を落とし込んでいくか。新規参入チームとはいえ、なんとか結果を出しつつ、NPBで通用する選手を育成していきたいものです。

 長崎は国見高に代表されるように、どちらかといえばサッカーのイメージが強い県でしょう。高校野球では春夏ともに優勝経験がありません。しかし、マリナーズで活躍する城島健司やロッテ・堀幸一など、素晴らしい選手も多く誕生しています。野球で長崎を盛り上げたい。1年間、この思いで頑張ります。

 まだまだ長崎のみなさんでもセインツのことは知らない方が多いようです。開幕戦は4月5(土)18時〜、佐世保野球場。対戦相手はリーグ王者の香川オリーブガイナーズ。ひとりでも多くの方に球場へ足を運んでいただけるよう、チームをアピールしていきます。長崎のみなさん、応援よろしくお願いします。

河埜敬幸(こうの・たかゆき)プロフィール>: 長崎セインツ監督
 1955年4月18日、愛媛県出身。八幡浜工高から74年、ドラフト5位で南海(現ソフトバンク)に入団。堅守の二塁手として定岡智秋(現高知監督)と二遊間を守った。79年には初の打率3割をマーク。オールスターにも4度出場し、89年限りで現役を引退。その後はホークスの2軍コーチや合宿所の寮長などを歴任し、07年から長崎セインツの監督に就任した。現役時代の通算成績は1552試合、打率.268、85本塁打、463打点、141盗塁。兄・和正氏も70〜80年代にかけて巨人のショートとして活躍した。


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 今回は河埜監督のコラムです。「将来が楽しみな速球派・土田(鎮西学院高)」。ぜひ携帯サイトもあわせてお楽しみください。


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