水も漏らさぬ、とはこのことだ。シーズン無失策、すなわち守備率10割。守備職人・菊池涼介(広島)に、またひとつ勲章が加わった。

 

<この原稿は2020年12月11日号『週刊漫画ゴラク』に掲載されたものを一部再構成したものです>

 

 過去、プロ野球においてシーズン通じての守備率10割は一塁手が3人記録しているが、守備機会の多い二塁手としては初めて。2020年、106試合に出場して503回の守備機会(刺殺193、補殺310)を無難にこなした。

 

 また菊池は二塁手としての連続無失策記録(503)も伸ばし続けている。相手打者からすれば、一二塁間、二遊間は“アリ地獄”のように映っているのではないか。

 

 他球団の内野手から「守りづらい」といわれるマツダスタジアムを本拠地にしての記録だから、なおのこと価値がある。

 

 かつて広島OBの川口和久はこう語った。

「マツダはマウンド付近は天然芝だが、そこから(外野に向かって)土になり、また天然芝になる。たとえば、雨が降ってシートを敷いたとする。シートをかぶせると土が硬くなるんです。

 天然芝が水気を含むと、打球がバウンドした際、滑ったり左右にブレたりする。そんななかでプレーしていると、必然的に腕は磨かれる」

 

 それを受けて、菊池はこう語った。

「確かに他の球場に比べると、守備は難しい。雨が降ってなくてもツルンと滑りそうになるときがあります。それに芝にも寝ているところと立っているところがある。だからボテボテのゴロでも、バウンドするたびに左右に揺れる。どこで跳ねるか、絶えず疑いをもってやっていないと、大変なことになります」

 

 守りづらい球場だから、試合中、ずっと集中力が試され続ける。万全の準備と咄嗟の判断力が、菊池を高みへと引き上げたのだろう。

 

 ここで敢えて問題提起したい。高守備率=名手という図式は成り立たない。なぜなら、抜けそうな打球には目もくれず、手が届くところだけカバーしていれば、エラーは減り、自ずと守備率は10割に近付くからだ。

 

 ところが菊池の場合、左右前後、ゴロもフライも、追っかけて何とかなりそうなものは全て捕りに行こうとする。まるで千手観音のようにどこからでも手が出てくるのだ。

 

 普通、あれだけ動き回れば、いくつかミスもありそうなものだが、菊池にはそれがない。本人も「際どい打球などに対し、攻めた結果の記録」と胸を張っていた。現在30歳。守備職人に円熟の味が加われば、それこそ天下無双だろう。

 

(このコーナーは二宮清純が第1週木曜、フリーライター西本恵さんが第3週木曜を担当します)


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