23日からオープン戦がスタートし、いよいよ本格的な野球シーズンが幕を開けました。昨年は中日が連覇を狙った北海道日本ハムを下し、53年ぶりに日本一に輝きました。果たして今季はどのような戦いを見せてくれるのか、非常に楽しみです。
 さて、今季のキャンプでは例年以上に多くの新人選手が話題となりました。なかでも最も注目を浴びているのが、松井秀喜選手(ニューヨーク・ヤンキース)、松坂大輔投手(ボストン・レッドソックス)、そして昨年新人王を獲得した田中将大投手(東北楽天)と同じく“怪物”の異名をとる中田翔選手(北海道日本ハム)です。

 初の対外試合となった10日の阪神との練習試合ではいきなり推定130メートルの場外ホームランを放ち、周囲を驚かせました。ここ最近はボール球に手を出し、三振や凡打するケースも多く見られますが、それでも18歳であのバットスイングの速さには非凡さを感じずにはいられません。

 今はまだ結果は出ていないかもしれませんが、プロの投手相手にフルスイングすることができています。ですから、インタビューを見ていても、本人はそれほど悩んでいるようには見受けられません。しかし、試合をしていく中で今後は高校時代とは比べものにならないほどのプロのボールの速さやキレに戸惑いを感じたりすることあるでしょう。また、1年間フルに試合に出場するということも初めてですから、体力や精神的な面での悩みが少なからず出てくると思います。

 しかし、中田選手ほどの素質を持っている選手であれば、いろいろな経験を積むことによって徐々に対応の仕方を覚え、力を発揮できるようになるでしょう。ですから、彼が目標とする“ホームラン20本”も1年目から達成できる可能性は十分にあると思います。

 メディアではよく清原和博選手(オリックス)のルーキー時代と比較されていますね。私は清原選手のようなパワフルなフルスイングが持ち味というより、中田選手は変化球にも対応できる順応タイプのスラッガーではないかと見ています。というのも、彼のバッティングを見ていると、意外にもヒザの動きがやわらかいんです。今は「内角に弱い」と言われていますが、結構早い内に克服できるかもしれません。
 いずれにしろ、彼が数年後にはチームの主砲として活躍するであろう逸材であることには間違いありませんので、注目して見ていきたいと思っています。

 そしてもう一人、注目の高卒ルーキー、佐藤由規(東京ヤクルト)投手も高い素質を持ち合わせた選手ですね。18歳で150キロ台のスピードを出せるというのは、「すごい」の一言に尽きます。彼も将来的にはいい投手になるでしょう。

 しかし、残念ながら今の段階では1軍でやっていくのは少し難しいかもしれません。フォームのバランスが悪く、力任せに投げているように見えます。原因はズバリ、下半身の弱さにあります。 エース不在のチームにあって本人も“開幕1軍”を目指しているでしょうし、首脳陣もまた期待しているでしょう。しかし、原因がはっきりしている以上、ここは焦らずに2軍でしっかりと体づくりをしてもらいたいですね。1軍デビューはそれからでも決して遅くはないはずです。

 一方、福岡ソフトバンクに入団した大場翔太投手にも注目です。即戦力としての実力はここ最近の新人選手の中ではナンバーワン。中田選手以上に1年目からの活躍が期待されます。

 大場投手は140キロ後半のストレートとスライダー、チェンジアップ、フォークといった多彩な変化球を投げ分けます。彼のピッチングを見ていると、どの球種を投げてもしっかりと腕が振れている。これは自信がある証拠です。また、コントロールも素晴しいですね。これは下半身を使えているので重心が低く、フォームに安定感があるからです。

 強いて不安な点を挙げれば、スタミナです。大学時代には3連投3完投という偉業を成し遂げ、“鉄腕”と言われている大場投手。しかし、彼も他の新人選手と同じく、年間を通して投げた経験はゼロですから、必ず疲労はたまってくるはずです。その時が彼にとって勝負どころとなるでしょうね。

 そのほか、広島でおもしろい素材を見つけました。九州国際大学出身で外野手の松山竜平選手です。彼も中田同様、今の時期からしっかりとバットが振れています。見た瞬間「あ、これは思いっきりのいいバッターだな」とわかりました。タイプ的には状態のいい時の嶋重宣選手に似ているかもしれません。

 広島は世代交代の時期にあり、若手の活躍が期待されています。今のまま思いっきりの良さを貫き、首脳陣にどんどんアピールしていけば、出場の機会が巡ってくる可能性は十分にあります。ぜひ、頑張ってチャンスを掴んでほしいものです。

 さて、私が新人として初めてキャンプに参加したのは17年前のことです。先輩たちのピッチングを見て、とにかくプロのレベルの高さに驚いたことを今でも鮮明に覚えています。しかし、圧倒されっぱなしでいるわけにはいきません。「自分も何とか1軍で投げられるようになりたい」とすぐに気持ちを引き締め直しました。

 1年目から1軍入りを果たし、活躍することができたのは自分自身に負けなかったことが最大の要因だったと思います。当然、私にも打ち込まれて悩み、苦しい時期がありました。しかし、萎えそうな心をなんとか奮い立たせ、諦めたり、手を抜くことはしませんでした。1年目からそうできたことで、その後の大きな自信にもなりました。

「反省しても、後悔するな」
 壁にぶち当たった時、後悔ばかりしていては決して前に進むことはできません。後悔するくらいなら、そうならないように次への準備をしっかりすること。それがルーキー達への私からのメッセージです。それぞれの活躍を期待しています!
 

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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