東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が、辞任の意向を固めた。後任人事のカギを握るのは同評議員・川淵三郎氏だろう。同評議会の“実質的な議長”とも呼べる川淵氏と当HP編集長・二宮清純が昨年に対談したを、今一度読み返そう。

 

二宮清純: 川淵さんがサッカー協会会長に就任される際、「キャプテン」という呼称がいいんじゃないかと提案させてもらいました。スポーツ界全体を牽引する船長という意味で。昨年12月に川淵さんは東京オリンピック・パラリンピック選手村の村長に就任されましたが、今度は「そんちょう」といよりも、より威厳のある「むらおさ」と呼びたい。

川淵三郎: いやいや、村長っていうのは結局、飾りみたいなもので一番の仕事は入村式の挨拶。時間の都合で5カ国ぐらいずつまとめて国旗掲揚と国歌吹奏を行う予定です。

 

<この原稿は2020年10月号『中央公論』に掲載されたものです>

 

二宮: 挨拶文はもう決めていますか。

川淵: いろんな制約があって自分の好きなように喋れないんですよ。英語とフランス語で行うんですが、その挨拶文をテープに吹き込んでもらって、丸覚えしようと思っています。

 

二宮: Jリーグ開幕の時の開会宣言「スポーツを愛する多くのファンの皆様に支えられまして、Jリーグは今日ここに大きな夢の実現に向かってその第一歩を踏み出します。1993年5月15日、Jリーグの開会を宣言します」を思い出さずにはいられません。後世の記録のためにあえて西暦から日付をおっしゃったのだと。入村式でも川淵さんならではの挨拶を期待したい。

川淵: そうですね。文書ができた後に僕なりに手を加えます。通り一遍は嫌ですから。1964年の東京大会に選手として出場して、今回の東京大会には村長として参加する。これは、おそらく過去に例のないこと。僕の人生の最後を飾る本当にハッピーなことだと伝えたいですね。

 

二宮: オリンピックの1年延期はやむをえませんが、川淵さんにはいつ頃連絡があったのでしょうか。

川淵: 皆さんとほとんど同じタイミングですよ。いまはとにかく諸々の努力が無に帰さないように、1年後にぜひ開催できたらいいなと思います。

 最近、選手村の状況を知ってびっくりしたのですが、ベッドなどの備品が全部備え付けられているから、室内に湿気がこもらないよう、しょっちゅう換気をしているそうです。そして一番驚いたのが、選手村には総合診療所があって、そこに高額な医療機器が備えられているのですが、一定期間作動しないと使い物にならなくなるらしい。このような維持管理費がかさんでいるのですよ。

 

<何を簡素化すべきか>

 

二宮: 新型コロナウイルス(以下、コロナ)の感染状況次第では再延期し、2年後の開催はありえないでしょうか。

川淵: 無理だと思いますね。2年後にはサッカーのワールドカップと北京の冬季オリンピックが予定されています。個人的な意見ですけれども、もし来年(※編集部注 今年)できなければ延期でなく、中止でしょう。森喜朗・組織委(東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委委員会)会長も、バッハIOC(国際オリンピック委員会)会長も、関係者は皆そう考えていると思います。コロナのワクチンと治療薬ができて、感染者数をゼロにするのは無理でしょうが、世界的に収束していけば……なんとか1年後に開催してもらいたいと思っています。

 

二宮: 中止かどうか判断するタイミングは、組織委としてはできるだけ引き延ばしたいでしょう。いつ頃がリミットになりますか。

川淵: これも個人的意見ですけれども、年内に決めるのではなく来年1月と2月とか、ワクチンや治療薬などの開発状況が見えてきて、感染者数のゆくえを見極めながらでしょうが、いずれにせよ、その頃には決断しなければいけないでしょうね。

 

二宮: いま組織委は「簡素化」ということを言っていますが、森会長に聞くと総論賛成各論反対の状況のようです。つまり、IOCからすると開会式は時間枠を取っており、放映権料をもらうことになっているのだから、開会式を短縮すれば違約金を支払わないといけない。ガラガラのスタンドを映すわけにもいかない、と。簡素化も思うように任せない。

川淵: アスリートの戦う場は絶対に簡素化できません。予選の回数を減らすと言っても無理があります。いろんな行事的なこと、本質的な競技以外のことをどう考えるか、それについては、僕は頭の中が整理できていません。

 だから簡素化と言うならば、何かしらの競技をとか、もっと大胆なやり方をしない限り無理だと思います。若者向けにいろんな競技を増やしましたが、一方で減らすものもあってしかるべきじゃないか。

 いま冨山和彦さんの『コーポレーション・トランスフォーメーション』を読んでいる最中です。オリンピックは肥大化したとよく批判されますが、ドライに思いきって削減するとか、いわば種目をトランスフォーメーション(変革)すべきですよ。それにはいろんな抵抗があったとしても、ドライにやり切ることがいまの時代には望まれている。大胆に変化させるタイミングだと思いますね。

 

(中編につづく)