18年前の一時期、いただいた仕事のほとんどをお断りしていたことがある。

 

 わたしも編集者だったからよく分かる。一度依頼して断られたら、二度とお願いしようとは思わない。いただいた仕事は迷わず受ける。それがフリーというもの……と思っていたのだが、あのときはどうしようもなかった。

 

 阪神が優勝しそうだったから。

 

 終盤の2週間は、確か、ありとあらゆる手段を講じてチケットを手に入れ、球場に足を運んだように記憶している。神宮、名古屋、甲子園と転戦していくうち、「またお会いしましたね」という方も出てきた。

 

 中には名の知れたタレントさんもいた。相当な売れっ子なのに、よくぞこんなに……というぐらい球場にいらしていた。少しばかり言葉を交わすようになったわたしは聞かずにはいられなかった。

 

「大丈夫なんですか?」

 答えを聞いて笑った。

「それどころちゃうでしょ」

 

 顔見知りではあるけれど、さほど親しいとはいえない会社員の知人から突然の電話をもらったのは5年前の秋だった。

 

「頼む! 一生のお願いだから、チケット、何とかしてくんない?」

 

 そこまで言われたら仕方がない。何とかしようと思ったら、奇跡的に何とかなった。9月10日、東京ドームの巨人対広島戦。この日、カープは25年ぶりの優勝を決めた。

 

 そうだよな、特別な日、特別な試合ってことになったら、仕事なんてほったらかすし、頼れるツテはなんでも使って見に行こうとするよな。

 

 聖火リレーだって、本来はそういうもんだったはずだよな。「スケジュールが合わないから」なんて理由は、絶対に出てこないはずのイベントだったよな。

 

 仕事に負ける聖火リレー。というか、著名人の中には引き受けることがリスクに感じられる方も出てきてしまったらしい聖火リレー。全てはコロナのせいだ、と言い切れないところがまた悲しい。

 

 それでも、ほぼ間違いなく一生に一度しかない聖火リレーの機会を手放したのは、他でもない、その方自身。後悔する日は来るかもしれないが、誰かに立腹することはない。

 

 だが、悲願の初優勝をなし遂げたチームが、3カ月後、解散するかもしれないとなったら、ファンはどうすればいいのだろう。

 

 財政難による運営停止を発表し、売却先を模索しているのは昨年の中国スーパーリーグ覇者の江蘇FC。負債額は80億円ともいわれ、売却先が見つからなければ、昨年の中国王者が解散という前代未聞の事態となる。

 

 新華社によれば、昨年1年間で1~3部で16ものチームが解散したとのことで、一時期世界を席巻したチャイナ・マネーによる選手の爆買いも、完全に終わった感がある。

 

 中国リーグは、平均でJリーグの5~6倍ともいわれた選手のギャラに大幅な制限を加えることも決めた。ここ10年間は当たり前になっていたお金の流れが、今後は大きく方向を変える。

 

 幸か不幸か、近年のJリーグは金銭的なバブルとは無縁の状態にあった。世界最高峰のリーグの一つを目指すのであれば、これからの数年間は、聖火リレー並みに特別な機会となる。辞退する必要は、ない。

 

<この原稿は21年3月4日付「スポーツニッポン」に掲載されています>


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