2021年秋、日本女子サッカーはプロリーグ『WEリーグ』がスタートする。一方、国内のトップリーグとして長年、支えてきた『プレナスなでしこリーグ』(日本女子サッカーリーグ1部)は、この春、今季の開幕を迎えた。3月27日、愛媛FCレディースはアンジュヴィオレ広島と対戦し、3-1で快勝。FW大矢歩はサイドアタッカーとしてピッチを駆け抜けた。

 

 開幕戦の会場となった愛媛総合運動球技場には桜が咲き誇っていた。大矢はオレンジのユニホームの背番号7を纏い、先発出場をした。得点こそ奪えなかったが後半37分にベンチに下がるまで、終始落ち着いたプレーを披露。前半12分には、左サイドからクロスを上げ、MF鈴木紗理の同点ゴールに繋げた。3対1で逆転勝ちを収めた試合終了後は、勝利のラインダンスをチームメイトたちと踊り、サポーターと共に歓喜の花を咲かせた。

 

 愛媛FCレディースは経営や運営方針を理由にプロリーグに参戦せず、なでしこリーグに残ることを選んだ。戦うステージは変わらないが、チームの陣容は大きく変わった。キャプテンのFW阿久根真奈らベテラン選手6人が現役を引退。日本女子代表(なでしこジャパン)にも選ばれているエースストライカーの上野真実を含めた計4人がWEリーグのサンフレッチェ広島レジーナへ移籍したのだ。

 

 チームの主力である大矢に、WEリーグのチームからオファーは届かなかった。なでしこジャパンでは通算9試合に出場した実績を持つ。

「WEリーグには自分を必要としてくれるチームがなかった。悔しいけど、それが今の実力」

 本人は現状を冷静に受け止めている。周囲の評価を覆すには、なでしこリーグでの活躍が必須である。

 

 心機一転のシーズン

 

 チーム在籍8年目の大矢。現メンバーでは最も長い。背負うものも変わった。どちらかと言えば社交的ではない彼女だが、「細かいことでも声を掛けるようにしています」と意識してコミュニケーションを図っている。また愛媛FCレディースでは長く「9」を背負ってきたが、今季からは「7」に。中高生時に所属した地元群馬FCホワイトスター時代に付けていた愛着のある背番号だ。心機一転で臨むシーズン。大矢はチームのリーグ優勝、そして自らには「得点王」という目標を掲げている。

「チームの勝利に、得点というかたちで貢献したいと思っています」

 

 自身の課題に「エゴイストな部分が弱い。それが自分の弱さ」と挙げる。その言葉は、彼女なりの点取り屋への“開花宣言”とも受け取れた。これまでは「私が決めなくても、味方が入れてくれればいい」と口にしていたように大矢は、フォア・ザ・チームのプレーヤーだった。愛媛FCレディースではセカンドトップやサイドハーフで起用されることが多く、リーグ戦のゴール数も15年の9得点が最多だ。「チームの勝利が一番」。その気持ちに変わりはないが、白星の数をひとつでも増やすために、自らが点取り屋へと変貌を遂げる必要があると考えているのだ。

 

 昨季までのチームメイトで、今季からはコーチとして大矢を見る阿久根コーチは「歩の実力を考えれば2ケタ得点は狙える」と語り、こう続けた。

「チームが攻撃的なサッカーを展開している以上、前めのポジションの選手は点を取らなければいけない。その意味で2ケタ得点は達成可能な目標だと思います」

 

 大矢が愛媛FCレディース入団した時から知る阿久根コーチは、彼女の能力を高く評価している。

「一瞬のスピードやキレは歩にしかないモノ。パンチのあるシュートもそうです。キック力があるので、女子にはなかなかいない展開力を持っているのも彼女の魅力ですね。一緒にプレーしていた時もやりやすかった」

 

 大矢の持ち味であるキック力や、当たり負けしないフィジカルは、強靭な足腰の賜物だ。それは彼女が、かつて“二足の草鞋”を履いていたことと無縁ではない。

 

(第2回につづく)

 

大矢歩(おおや・あゆみ)プロフィール>

1994年11月8日、群馬県生まれ。小学4年でサッカーを始める。小学生時はFC笠懸84、中学・高校時には群馬FCホワイトスターと地元のジュニアチームに所属した。また小学3年時から高校2年時まで桐生スケートクラブにも在籍し、スピードスケートとの“二足の草鞋”を履いていた。高校2年の夏、ドイツのデュイスブルク行きを機にサッカーに専念。高校卒業後は愛媛の環太平洋大学短期大学部に進学した。愛媛FCレディースに加入し、1年目から出場機会を得た。その後は主力として活躍。19年、なでしこリーグ2部優勝、1部昇格に貢献した。日本女子代表(なでしこジャパン)には17年初招集され、9試合に出場した。ポジションは主にFW、MF。背番号7。身長160cm。利き足は右。

 

(文/杉浦泰介、写真/©EHIMEFC)

 


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