第36回 補強成功に不可欠なチームの“和”

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 今オフもFAやトレードなど、各球団の補強合戦が繰り広げられました。なんといっても注目は、主力の外国人選手3人を獲得した巨人です。本命だった福留孝介選手はメジャーのマネーゲームに太刀打ちできずに断念せざるを得なかった巨人。しかし、その後マーク・クルーン投手、セス・グライシンガー投手、アレックス・ラミレス選手と契約しました。来季の巨人にとって重要ポイントとなる守護神、本格派右腕、長距離砲を一気に獲得できたのですから、球団にとっては結果的に補強合戦に成功したといえるでしょう。
 とはいえ、これで“常勝軍団”復活となるかどうかと言われれば、決してそうではないと思います。確かに、開いた穴を埋めるには、他球団から即戦力の選手を獲得することが一番手っ取り早い方法です。一から若手を育成することを考えれば、時間も労力もかからず、効率がいいようにも思われます。しかし、これは単にほころびを繕っただけのことで、そう長くは続きません。大事なのはなぜ穴が開いたのか、そしてその穴が2度と開かないようにするためにはどうすればいいのか、ということ。一時的な凌ぎだけでは、チームはいつまでたっても安定した強さを確立することはできないのです。

 また、一見理にかなっているようにも思えるこの補強も、一つ間違えればチームの低迷につながる可能性もあるのです。補強選手において最も難しい点は既存の選手といかに信頼関係を築くことができるかどうかです。例えば、グライシンガー投手の獲得が正式に発表されるや否や、内海哲也投手が球団への不満を口にしていました。こうしたことが続けば、チームの和が乱れ、選手たちの士気は下がる一方です。野球はあくまでも団体スポーツですから、個々の能力以上にチーム力が重要です。監督やコーチを含めてチームが一体となれるか。来季の巨人にはそのことが第一に求められてくるでしょう。

 そのほか、FAで広島の新井貴浩選手が阪神へ、北海道日本ハム・金村暁投手と阪神・中村泰広選手、横浜・古木克明選手とオリックス・大西宏明選手がそれぞれ交換トレードされました。どのチームにも言えることですが、補強したからといって、それがそのまま強さに結びつくとは限りません。移籍組と既存の選手がどれだけ確固たる“和”を築くことができるか、それが何より重要なのです。

 例えば、2002年オフに広島から阪神にFA移籍した金本知憲選手は真面目に野球に取り組む姿勢がチームやファンに受け入れられました。また、昨オフに福岡ソフトバンクから横浜にトレードされた寺原隼人投手が今季、チーム一の勝ち星を得ることができたのは、「結果を残さなければ」という危機感のもと、一生懸命努力したからにほかなりません。つまり、移籍した選手が自分に託された役割をきっちりと果たし、チームに認められて信頼感を得る。そこで初めてチームとしての強さを発揮をすることができるのです。

 一方、他球団に主力選手を奪われた球団がそのまま戦力ダウンにつながるかというと、そうとは限りません。例えば、広島はFAで黒田博樹投手がロサンゼルス・ドジャースへ、そして新井貴浩選手は阪神へ移籍することが決定しました。投打の柱が抜けた穴が大きいことは確かです。しかし、これがチームにとって悪い影響ばかり与えるわけではありません。なぜなら、若手にとっては大きなチャンスだからです。

 広島は自前で選手を育てることができるチームです。現在も若手がどんどん伸びています。中でも、私が特に注目しているのが大竹寛投手と栗原健太選手です。大竹投手は今季27試合に登板し、9勝10敗と黒田に次いで2番目に多い白星を得ました。一方、栗原選手は全144試合に出場し、チーム一の打率3割1分、175安打をマーク。本塁打、打点も新井に次いで2位の成績でした。この2人が黒田、新井が抜けたことで「自分が先頭に立ってやらなければ」と自覚して奮起すれば、広島が今季以上の成績をあげる可能性は十分にあり得ます。

 果たして、今オフの補強合戦がどのような影響をチームにもたらすのか。今から来季の開幕が楽しみです。


佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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