いよいよ12月1日から来夏の北京五輪出場を目指して“星野ジャパン”がアジア予選に挑みます。杉内俊哉、多村仁(ともに福岡ソフトバンク)、小笠原道大、高橋由伸(ともに巨人)の4選手がケガのため、自ら代表を辞退したことは残念です。しかし、最終候補に残っているメンバーは、NPBを代表する蒼々たる選手ばかり。ペナントレースが終了したこの時期に、彼らのプレーを観れるというのは、非常に嬉しいことです。
 レギュラーシーズン144試合に加え、選手によってはクライマックスシリーズ、日本シリーズ、アジアシリーズを戦い抜き、疲労はピークに達していることでしょう。しかし、国の代表として日の丸を背負い、世界に挑むことなど、そう経験できるものではありません。しかも、五輪での野球はひとまず北京が最後です。それだけに選手一同、疲労よりも「出場権を獲得し、日本に金メダルを!」という意欲の方が大きいのではないかと思います。

 さて、注目されるのがアジア予選での先発投手です。候補としてはダルビッシュ有(北海道日本ハム)、成瀬善久、渡辺俊介(ともに千葉ロッテ)、川上憲伸(中日)、涌井秀章(西武)などが挙げられています。その中で、ダルビッシュと成瀬はほぼ確定でしょう。問題は残された1枠を誰にするのか。各チームのエースがズラリと並んでいるわけですから、星野仙一監督や大野豊投手コーチも贅沢な悩みに頭を抱えていることでしょう。

 私の予想では、渡辺俊を先発させるのではないかと思います。一番の理由は、アジアには渡辺ほどの本格的なアンダースローの投手がいないということです。右のダルビッシュ、左の成瀬、そしてアンダーの渡辺俊――バッターの目線を変えるにはもってこいの3人です。

 オーストラリアとの壮行試合で先発した川上は、アジアシリーズまで投げた疲労を考えれば、アジア予選では可能な限り休ませたいですね。また、涌井は渡辺俊が早いイニングでつかまったときのロングリリーフとして残しておきたい。彼はスピードと力でバッターをねじ伏せることができます。嫌な流れを切ることができるのは、“技”ではなく、涌井のような“力”なのです。

 中継ぎ、抑えに関してはケースバイケースで考えるのではないかと思います。例えば、左の強打者には岩瀬仁紀(中日)、思いっきりのいいスイングをする打者にはフォークで三振を取れる上原浩治、パワーで勝負する打者には藤川球児(阪神)……など、ピンポイントで使っていくのです。これだけの投手が揃っているのですから、出し惜しみせずに贅沢な起用法が見られることでしょう。

 一方、攻撃のポイントは上位打線にあります。普段のペナントレースとは異なり、アジア予選は一発勝負。勝つためには、四球や内野安打でもいいからランナーを出さなければいけません。今回の“星野ジャパン”のメンバーを見ても、そのことを重要課題としていることが一目瞭然です。なぜなら、TSUYOSHI(ロッテ)、川崎宗則(ソフトバンク)、青木宣親(東京ヤクルト)、荒木雅博、井端弘和(ともに中日)と俊足で出塁率が高く、三振の少ない打者を数多く揃えているからです。

 彼らのように機動力だけでなく、粘り強さも兼ね備えた打者は、相手投手にとっては非常に嫌なもの。おそらく1番から3番まで守備を考慮しながら、彼らをズラリと並べてくることでしょう。この上位打線の働きが、“星野ジャパン”の命運のカギを握っているといっても過言ではありません。

 日本代表は本来の力を発揮しさえすれば、来春の最終予選まで持ち越さず、12月のアジア予選で五輪出場を決められる力をもっています。体調管理をしっかり行ない、万全な状態で臨んでほしいものですね。来週、台湾から日本に吉報が届くことを心待ちにしたいと思います。
 

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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