カネがなかったんだろうな、としみじみ思う。1週間後には、W杯予選が香港で始まる。12月の香港と日本とでは、季節も違えば芝生の状態も違う。できることなら、前乗りして体を慣らしておきたい。実際、近年の日本代表はずいぶんと早い段階でW杯開催地に乗り込むのが常となっている。

 

 だが、80年12月の日本サッカー協会に、そんな余裕はなかった。難敵揃いのアジア予選に臨む日本代表の壮行試合の相手としてあてがわれたのは、釜本邦茂らで構成された、元日本代表の面々だった。会場は国立。平均年齢21.5歳と大幅に若返っていた日本代表は、しかし、チーム練習などやったことがないはずの混成チームに2-3で敗れた。

 

 あれから41年。

 

 苦肉の策だったんだろうな、とは思う。会場は押さえてしまっているし、テレビ中継も決まっている。穴をあけることだけは避けたいと考えたがゆえの、苦渋の選択。ただ、専門誌でさえカラーグラビアで扱わず、試合がテレビで中継されることもなかった41年前と違い、今回の対決は大きな注目を集めるだろう。白状すれば、ジャマイカとやるのを見るよりよっぽどワクワクする。

 

 A代表の選手にとって難しい試合になるのは間違いない。41年前の元代表たちと違い、彼らには負けて失うものがある。仮に大敗でも喫しようものなら、誇りばかりかポジションまで失いかねない。

 

 特に、オーバーエージで抜けた3人の穴を埋める選手は、大いに期するものがあるはず。この試合の結果と内容如何(いかん)では「控え選手」から「代表予備軍」に転落することも考えられる。抜けた穴を埋められなかった、と見なされてしまえば――。

 

 一方、U-24代表にとっては最高の腕試しの場が与えられたことになる。特に、自分たちの武器と弱点をよく知るチームとの対決を経験できるのは大きい。

 

 もちろん、彼らの多くは5日のガーナ戦に向けて調整してきたはずで、コンディション面で難しいところがあるのは間違いない。かつ、いまのA代表は相当に強い。W杯予選ミャンマー戦で“暖気運転”を済ませている、という強みもある。若い選手たちにとって、厳しい試合となる可能性は高い。

 

 ただ、本当に東京五輪が開催され、そこでの金メダルを狙おうというのであれば、彼らは勝たなければならない。というより、ここでA代表に圧倒されているようでは、金メダルはおろか銅メダルだっておぼつかない。ただ勝つだけではなく、相手を粉砕して勝つ。それぐらいの意気込みと結果を見せてほしい。

 

 相手がA代表だから勝てなくても仕方がない、という考え方は、相手がブラジルだから、スペインだから、という考えにも通じる。通じてしまう。そうした弱気の芽を叩きつぶすためにも、A代表の喉笛を食いちぎるような気迫が見たい。

 

 そして、そんな若獅子を崖から突き落とす成熟した獅子の姿も見てみたい。

 

 いずれにしろ、サッカーファンにとっては二度と見られないかもしれない、夢の対決の実現である。公式戦と違い、ミスを必要以上に恐れることもないだろうから、自分たちの武器を前面に押し出そうとする、オープンな試合が予想される。

 

 ま、一番の勝利者は、絶体絶命の状況でこのアイデアを出してきた日本サッカー協会かと。あっぱれ!

 

<この原稿は21年6月3日付「スポーツニッポン」に掲載されています>


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