(写真:メインイベントで勝利したクレベル。静岡のボンサイ柔術所属 ⓒRIZIN FF)

 13日、『RIZIN.28』が東京ドームで行われた。メインイベントは朝倉未来(トライフォース赤坂)がクレベル・コイケ(ブラジル)に2ラウンド1分51秒一本負けを喫した。ライト級王座決定戦はホベルト・サトシ・ソウザ(ブラジル)がトフィック・ムサエフ(アゼルバイジャン)を1ラウンド1分12秒、一本勝ちで初代王者に輝いた。新設のバンタム級日本GPは朝倉海(トライフォース赤坂)、井上直樹(セラ・ロンゴ・ファイトチーム)、扇久保博正(パラエストラ松戸)、元谷友貴(フリー)が勝ち上がった。

 

 総合格闘技では2003年11月に開催された『PRIDE GRANDPRIX決勝戦』以来の東京ドーム大会だ。当時はブラジリアン柔術の使い手アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ(ブラジル)は一本勝ちでヘビー級暫定王座に輝いた。17年7カ月の時が経った。『PRIDE』は終わりを迎え、新たに『RIZIN』とかたちを変えての東京ドーム興行は、またしても柔術の使い手が席捲した。

 

(写真:ベルトを巻くサトシ<右>。リング上で「日本にベルトを戻したよ!」と叫んだ ⓒRIZIN FF)

 ライト級のベルトを巻いたサトシ、メインを務めたクレベルはともに静岡在住でボンサイ柔道の所属である。サンパウロに本部を構えているが、静岡には本部(磐田市)と2つの支部(浜松市、静岡市)がある。サトシはボンサイ柔術の創始者アジウソン・ソウザの三男。サトシはクレベルを「弟」と言い、クレベルはサトシを「先生」と呼ぶ。

 

 先にリングに上がったサトシの相手トサエフは2019年にライト級トーナメントを制した実力者。RIZIN参戦後、5連勝中だったがコロナ禍の影響で入国がかなわず、また母国の内戦に徴兵され、試合からは1年以上遠ざかっていた。一方の2年前のライト級トーナメントでは1回戦で敗れたものの、矢地祐介(当時KRAZY BEE)、徳留一樹(パラエストラ八王子)を下して王座への挑戦権を得た。今回のタイトルマッチは昨年の大晦日に予定されていた2人の試合がようやく実現したかたちだ。

 

(写真:師である父の得意技・三角締めで悲願の王座を獲得した ⓒRIZIN FF)

 決着は早々についた。1ラウンド早々、サトシはタックルからテイクダウンを奪おうをする。トサエフに粘られたが、両足で絡みつき、グラウンドに持ち込んだ。サトシが三角締めで完全に捉えると、ムサエフは蜘蛛の巣に引きこまれた獲物のように身動きがとれなかった。相手はたまらずタップ。わずか73秒で仕留めた。サトシはこれまで総合格闘技で11勝中全KO(パウンド4、一本7)の実力を遺憾なく発揮してみせた。

 

 メインに登場したクレベルはフェザー級のノンタイトルマッチで圧巻の強さを見せつけた。立ち技の朝倉未来と寝技のクレベルという図式。朝倉未来が見舞った左右のフックでクレベルがグラつく。だがラッシュは仕掛けなかった。「目が死んでいなかった」と朝倉未来。野生の勘が働いたのだろう。迂闊には近付けない。それが対峙した者にしかわからないクレベルの怖さ。それが“鬼神”と呼ばれる男の纏う空気感なのかもしれない。

 

(写真:「柔術は力じゃなくてテクニックが大事」とクレベル。サトシと同じ三角絞めで決めた ⓒRIZIN FF)

 2ラウンドはコーナーポスト際での攻防。クレベルが両足を巻き付かせグラウンドに持ち込む。「コーナーポストに押しつけていたので、あそこから(三角締めに)入らないと思っていた。あまり覚えていないが油断しました」と朝倉未来。クレベルの足が朝倉未来の首に絡みつく。三角絞め。戦前から「タップはしない」と明言していた朝倉未来だが、力なく項垂れる。クレベルがレフェリーにそれをアピールし、勝負の決着がついた。傷ひとつないクレベルと、右まぶたを腫らした朝倉未来。2人の顔からも勝敗は明らかだった。クレベルの視線はその先へ。フェザー級王者の斎藤裕(パラエストラ小岩)の首を狙うと明言した。

 

 大会終了後、榊原信行CEOは「圧倒的なソウザ・クレベルチーム、ボンサイ柔術チーム。柔術復権という大会」と総括した。サトシは日々の鍛錬が力になっているという。「いつも強い人と毎日練習している。試合と練習は同じくらいキツい。試合には、緊張があるくらい。いつもキツい練習するからね」と静岡での日々を語った。

 

(文/杉浦泰介)