53年ぶりの「銅」へ。あのメキシコ五輪が教えてくれること
死闘となったU-24スペイン代表との東京オリンピック準決勝は、延長後半にオーバーエイジのマルコ・アセンシオにゴールを奪われ、0-1で敗れた。
森保一監督率いるU-24日本代表はスペインにボールを保持されながらも粘り強く、組織的に守り、この日も「先制点を奪われないサッカー」を展開した。チャンスがなかったわけではなく、基本的には指揮官の狙いどおりだったと言える。
延長に入り、久保建英と堂安律の同時2枚替えに批判の声もあるが、筆者はこの采配を支持したい。ここまで中2日で全試合に先発していた2人には疲労の色が濃くなっていた。フレッシュな三好康児、前田大然を投入することはむしろセオリー。彼らはフランス戦でゴールを奪っており、中2日の鬼スケジュールのなかでは多くの選手が活躍していかなければメダルにたどり着かない。スペインは次々と交代カードを切り、プレー強度を維持しようとした。結果は僅差であったが、チーム力に差があったのも事実だった。
しかしながらスペインに負けて大会が終わったわけではない。1968年のメキシコオリンピック以来となる銅メダルが懸かる3位決定戦が待っている。相手はそのときと同じメキシコというのも何か因縁を感じる。
スペイン戦後のフラッシュインタビューでキャプテンの吉田麻也はこう話した。
「精神面を話すのは好きじゃないですけど、ここからはメダルを獲りたいという気持ちのほうが強いほうが勝つと思うので、この2日間いいリカバリーをして最後、メダリストになりたいです」
決勝に進めば中3日あったが、3位決定戦のU-24メキシコ代表戦は中2日の8月6日。これで6試合目となり、コンディション的にはかなりダメージが蓄積されていると考えていい。「精神面を話すのは好きじゃない」キャプテンが、「気持ちの強いほう」というのも2012年のロンドンオリンピックの経験があるからだと思う。
ロンドンでは準決勝でメキシコに1-3で敗れて韓国との3位決定戦に回ったものの、気持ちの切り替えに時間が掛かったと語る選手もいた。兵役免除が懸かっていた韓国と、モチベーションの差があったことはやはり否めなかった。
今回、金メダルという目標に手が届かなくなったことでモチベーションがガクンと下がってしまう可能性がある。スペインに敗れたショックがあるなかでも吉田が敢えて「メダリストになりたい」と語ったのは、チームメイトをもう一度鼓舞する目的があったのではないだろうか。
銅メダルを獲得した53年前のメキシコオリンピックから何か学べることはないだろうか。
過日、3位決定戦で2ゴールをマークし、勝利に大きく貢献した釜本邦茂さんにインタビューする機会があった。
ハンガリーに0-5と大敗したことで、逆に気持ちを切り替えられたという。
「あれが0-1とか1-2なら、“もうちょっとやっておけば”と思うんでしょうけど、完敗ですから。世界のトップクラスはこんなに強いのかって、悔しいという気持ちなんて私はさらさらなかったですよ」
当時“日本サッカーの父”デットマール・クラマーさんは日本代表コーチの立場を離れ、FIFA(国際サッカー連盟)のスタッフとしてメキシコを訪れ、いろいろと日本代表のサポートをしていた。クラマーさんの一言が、疲れ切っていたチームの闘志に火をつけた。
「3位決定戦の前に、ビールを一杯飲ませてくれたんですよね。そして〝銅メダルを持って日本に帰るか、それとも手ぶらで帰るか、どっちがいい?〟と。そりゃあメダルだよなって、士気が高まった感じがありましたね」
きっかけさえあれば疲れは吹き飛ぶ。そんなものなのかもしれない。
スペイン戦の敗戦はもう過去のこと。引きずらなくていい。
今回の東京オリンピック代表は、グループリーグを唯一全勝で勝ち抜けた。準々決勝のニュージーランド戦は手間取ったものの、それでも落ち着いてPK戦を制した。勇敢に、組織的に、本当に素晴らしいチームだと感じている。
グループリーグではメキシコに勝ったが、むしろメキシコの強さを思い知らされた感もある。すべてを出し切らなければ、銅メダルはない。
最後、メダリストになりたい。
キャプテンの思いがチーム全体の本気の思いになれば、必ずやメダルに届くはずだ。