アテネ、北京、ロンドンとパラリンピックに3大会連続で出場した田口亜希。パラ射撃で2大会連続入賞を果たしたパラリンピアンと当HP編集長・二宮清純が、射撃の魅力とパラリンピックの将来について語り合う。

 

二宮清純: 以前、田口さんとお話をした時に印象に残ったのが、ロンドン五輪・パラリンピック(オリパラ)の「ゲームズメーカー」の話でした。

田口亜希: 懐かしいですね。ロンドンパラリンピックでは、競技運営や選手のサポートをしてくれるボランティアの人たちのことを「ゲームズメーカー」と呼んでいました。なぜそう呼ぶのかというと、選手と観客とボランティア、そして組織委員会が一体となってゲームをつくると考えられたからです。私は試合で調子が出ず落ち込んだのですが、撃ち終わったときに最初に称賛の声をあげてくれたのがゲームズメーカーの人たちでした。それを合図に観客席からも拍手が起きた。私が笑顔で会場を後にできたのは、彼ら・彼女らのおかげです。

 

二宮: 私はこれまで数多くのオリパラやサッカーW杯を取材してきましたが、“ホストが楽しんでいなければゲストは楽しめない”ということを痛感しています。その意味で競技のほとんどが無観客で行われる東京大会は、これまでの大会とは全く異なると言っていいでしょう。

田口: 状況が状況なので仕方がありません。ただ、ボランティアと選手たちの交流が減るのはとても残念です。

 

二宮: 一方で、公平性を担保するという意味で、外国の選手にとっては無観客でよかったという見方もあります。

田口: 観客が日本人ばかりだと、どうしても日本人ばかりだと、どうしても日本人選手を応援しがちになりますからね。

 

二宮: 田口さんは、これまでパラリンピック3大会(アテネ・北京・ロンドン)に連続出場されました。10メートルエアライフル伏射(SH1)で、アテネ7位、北京で8位と2大会連続で入賞したわけですが、パラの射撃競技について知らない人も多いと思います。簡単に紹介していただけますか。

田口: まず射撃には、ライフルとピストルがあります。そして、SH1(下肢のみの障害)とSH2(上肢を含む障害)というクラス分けがあり、射撃姿勢(伏射・立射・膝射)と距離(10・25・50メートル)の組み合わせで種目が構成されています。

 

二宮: それで「10メートル」「エアライフル」「伏射」「SH1」というわけですね。今回は無観客という異例の大会ですが、基本、射撃は、集中力を乱さないためにも観客はあまり声を出さないほうがいい。

田口: 出しちゃいけないことはないのですが、昔は本当に静かでした。ただ、ロンドン後は、観客が楽しめることが大事だということでBGMを鳴らすようになっています。

 

二宮: 銃を構えて集中しているときに、ワーッとか騒がれたり、手拍子されたりするとリズムが崩れるでしょう。

田口: それは嫌ですね。手拍子されると、自分の撃つタイミングと違ってやりづらいです。ただ、「そんなことも気にならないくらい集中しなさい」とも言われます。確かに集中した状態になれれば、他の音は全く聞こえません。

 

二宮: 以前、田口さんから「チークピース」の話を聞きましたが、射撃は実に繊細な競技です。再度、チークピースについて教えてもらっていいですか。

田口: ライフル銃を構える際、頬を当てる部分がチークピースです。銃床の上部に付いていて、手動で高さが調整できます。

 

二宮: やせてしまって頬がこけると、競技に影響するんですよね。

田口: はい。1ミリ頬がこけると、10メートル先、50メートル先の標的では大きなズレになります。疲れやプレシャーで食事がとれなくなると頬がこけて、それが試合に影響してしまうので、やせないように必死で食べます。それでもやせてしまうことがあるので、それに対応できるように、チークピースの高さをうまく調整できる能力を身につけておかなければなりません。

 

(詳しいインタビューは8月1日発売の『第三文明』2021年9月号をぜひご覧ください)

 

田口亜希(たぐち・あき)プロフィール>

1971年、大阪府堺市出身。学校を卒業後、郵船クルーズ株式会社に入社し、旅客船「飛鳥」のパーサー(乗務員)として世界中を航海。25歳のときに脊髄の血管の病気を発症し、車いす生活になる。退院後、友人の誘いで射撃(ビームライフル)を始め、やがて実弾を使用するライフル射撃に転向した。2004年アテネパラリンピック、08年北京パラリンピック、12年ロンドンパラリンピックと、3大会連続で出場。10メートルエアライフル伏射(SH1)では、アテネで7位、北京で8位と2大会連続で入賞した。現在は日本財団パラリンピックサポートセンターに勤務する傍ら、日本パラリンピアンズ協会副会長、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会アスリート委員として、東京パラリンピックの開催に尽力している。


◎バックナンバーはこちらから