東京オリンピック陸上競技3日目が1日、東京・国立競技場で行なわれた。男子100m決勝は、ラモントマルチェル・ヤコブス(イタリア)がヨーロッパ新記録の9秒80で制覇。同種目イタリア初の金メダルをもたらした。2位は9秒84でフレッド・カーリー(アメリカ)、3位には9秒89でアンドレ・ドグラス(カナダ)が入った。

 

 北京、ロンドン、リオと3連覇で世界記録保持者のウサイン・ボルト(ジャマイカ)が退いた今、群雄割拠の時代に突入した“世界最速”の称号を得る争い。最新のオリンピック王者に輝いたのはイタリアの26歳だった。

 

 予選から自己ベストを塗り替え続けた。日本の山縣亮太(セイコー)らと走った予選第3組は9秒94のイタリア新記録で同組1位通過。決勝の約2時間半前に行われた準決勝では9秒84のヨーロッパ記録を更新していた。

 

 決勝は午後9時50分。この日の陸上競技最後の種目だった。場内は暗転。トラックにプロジェクションマッピング。ファイナリスト8人の名前や国籍などが映し出された。花形種目ならではのド派手な演出となった。

 

 緊張の一瞬。静寂に包まれる場内。スタートの号砲が鳴る前に飛び出してしまったザーネル・ヒューズ(イギリス)がフライングで失格となった。7人で仕切り直しとなったファイナル。号砲と同時に勢いよく飛び出したのはカーリーだ。

 

 中盤から加速をし、カーリーのそのまま逃げ切りを許さなかった。力強いストライドからトップに立つと、そのままの順位でフィニッシュラインを駆け抜けた。勝利を確信し、喜ぶヤコブス。9秒80は自己ベストをさらに更新し、準決勝で樹立したヨーロッパ記録も塗り替えた。男子走り高跳びで金メダルを獲得したイタリアのジャンマルコ・タンベリが駆け寄って勝者を祝福した。

 

 2位にアメリカのカーリー、3位にはカナダのドグラスが名だたるスプリンターを輩出した強豪国が入ったものの、イタリアが男子100mを制したのは初のことだ。ジャマイカ勢は決勝にすら進めず、勢力図は塗り替えられたと言っていい。

 

 惜しむらくは、決勝の舞台に日本勢がいなかったことか。期待された山縣、多田修平(住友電工)、小池祐貴(住友電工)は予選落ちに終わった。ヤコブスなど予選から自己ベストを出す選手もいた中、日本勢は思うように力を発揮できなかったのは残念だった。

 

 一方で中国のスー・ビンチャンが準決勝で9秒83の驚異的なアジア記録をマークし、ファイナルに進んだ。世界選手権2度ファイナリストとなったアジア屈指のスプリンターはオリンピックでも、その実力を発揮した。9秒台突入に続き、日本はまたアジアのライバルに先行されたかたちとなった。

 

(文/杉浦泰介)