さて、一晩が明けて少し冷静にもなったので、改めてスペインとの準決勝を振り返ってみる。

 

 ともに死線をくぐり抜けてきた者同士の準決勝。わたしが期待していたのは、五輪サッカー史上に残るような激闘、死闘だった。

 

 だが、期待は裏切られた。当事者にとってはそこそこスリリングな120分だったが、第三者にとっては、退屈の極みだったに違いない。これがW杯の準決勝だとしたら、世界中からブーイングが噴出していた。

 

 日本は疲れていたし、スペインにいたってはキックオフの時点で疲労困憊していた。ペドリの市場価値が久保の10倍? この試合だけを判断材料にするならば、堂安にはペドリの1.5倍の値がつくだろう。

 

 残念ながら、疲れ切っていたのはスペインだけではなかった。もう一つの準決勝を戦ったブラジルとメキシコも、グループリーグ初戦の勢いを10だとすれば、5がつけられるかどうか、というぐらいにサッカーの質が低下してしまっていた。

 

 選手たちを責めることはできない。この気象条件のもと、中2日での試合を強いる方が間違っている。大会が進むに連れて試合のレベルが低下していく大会は、何か、ひょっとしたら何もかもが根本的に間違っている。

 

 五輪にとってのサッカーは、ドル箱競技の一つだという。だが、こんな惨状を見せつけられては、男子サッカーに関しては日程を考え直すか、そもそも五輪に加わり続けるかを再考する時期に来ていると言わざるをえない。強豪国にとっての五輪は、必要とされるエネルギーに対して得られるものが小さすぎる。

 

 ここ四半世紀、五輪サッカーに熱を与えてきたのは金メダルを熱望していたブラジルの悲願だったが、それも5年前に成就した。今後、世界の強国が五輪サッカーにいま以上の情熱を注ぐことは考えにくい――現在の出場資格やスケジュールで行われる限り。

 

 金曜日に行なわれる3位決定戦については、何とも予想が難しい。1次リーグでの試合内容からするとメキシコ有利と見るのが普通だが、日本以上に優勝を現実的な目標としてとらえていた彼らに、果たしてモチベーションが残っているか。日本にとっては史上最高タイとなる銅メダルも、ロンドンで金をとっているメキシコからするとただの残念賞かもしれないからだ。腑抜けの状態であれば、メキシコといえども敵ではないが、願わくば、最高に近い状態の強敵とやり合い、撃破したい。

 

 最後に、準決勝で一番印象に残った場面について触れておきたい。一度はPKが宣告されながら、VARで判定が覆った直後、偽りの警告を出されていた吉田が主審とグータッチを交わした。「うわ、俺が審判やったら惚れる!」と思ったら、その後、日本がペナルティーエリア内で犯した微妙なハンドを主審はスルー。

 

 情けは人のためならずというか、コミュニケーションの重要性を思い知らされたというか。さすが吉田、と感服した次第です。

 

<この原稿は21年8月5日付「スポーツニッポン」に掲載されています>


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