第732回 噴火した筒香嘉智 休火山から活火山
「所変われば品変わる」ということわざがあるが、この選手の場合、所変わればバッティングまで変わってしまった。余程、ピッツバーグの水が合ったのだろう。
<この原稿は2021年11月19号『週刊漫画ゴラク』に掲載されたものです>
横浜DeNAからメジャーリーグに移籍して2シーズンを終えた筒香嘉智のことだ。
メジャーリーグ1年目の昨季、コロナ下ということもあり、レイズでの筒香の出場数は全60試合中51試合にとどまった。
打撃成績は打率1割9分7厘、8本塁打、24打点。侍ジャパンの4番まで張った男にしては寂しい数字だった。
2年目の今季も開幕から出遅れた。5月には戦力外通告を受け、ドジャースへ移籍した。だが、ここでも筒香のバットは沈黙したままだった。7月にはマイナーリーグに落ち、8月、2度目の戦力外通告を受けた。
やはり筒香はメジャーリーグでは通用しないのか。
日曜朝の人気番組「サンデーモーニング」では張本勲に「渇!」のかわりに「早く日本に帰ってきたらいいんだよ」と同情される始末。日米ともに球界は二刀流・大谷翔平(エンゼルス)の話題で持ち切りだった。
しかし、捨てる神あれば拾う神あり――。3球団目のパイレーツで、筒香は突如として甦ったのだ。あたかも地中深くたまっていたマグマを一気に吐き出すかのように。
なんと8月中旬にパイレーツに移籍してからの打撃成績は打率2割6分8厘、8本塁打、25打点。長打率5割3分5厘。9月に入ってからは「4番・一塁」で先発する試合が増えた。
いったい何が筒香を変えたのか。変身のきっかけはドジャース3Aでの微調整。打席での始動が早くなった。
というのも、メジャーリーグ志向の筒香は向こうの投手に特有の“動くボール”に対応するため、日本時代からボールを引き寄せ、センターからレフト方向に弾き返すバッティングを身上にしていた。
ところがメジャーの投手は日本の投手より平均で2マイル(3.2キロ)は球が速く、しかもムーブするため、フルスイングできず、当てにいくだけの、いわゆるよそ行きのバッティングになっていた。要するに押し込まれていたのだ。本人によると「(米国と日本では)間が違っていた」。
これを修正するためには、テークバックを早めにとり、自分の“間”で勝負するしかない。18.44メートル先の相手から主導権を奪ったことがシーズン終盤の覚醒につながったのだ。活火山と化した筒香。今から来季が楽しみだ。