照明の落ちた球場で、重低音の雄叫びとともに手にしたスマホを上下に振り降ろす。その独特の応援風景には、まるで暗闇を照らす光のシャワーのような趣がある。率直に言ってきれいだ。もっとも相手にすれば、葬送の儀式にも似て、これほど不気味なものもあるまい。

 

 26年ぶりにワールドシリーズを制したアトランタ・ブレーブス。本拠地での名物応援「トマホーク・チョップ」が物議を醸して久しい。ネイティブ・アメリカン、すなわち米先住民を冒涜するものという指摘である。チェロキー族の血を引くセントルイス・カージナルスのライアン・ヘルズリーは「先住民に対する偏見を助長する」と批判している。

 

 今にして思えば、あれは “哀しい必殺技”だった。1970年代から80年代にかけて、日本のマットを荒らし回ったチョクトー・チカソー族系のプロレスラーがいる。当時“狼酋長“の異名で恐れられたワフー・マクダニエルだ。

 

 NFLマイアミ・ドルフィンズ創設時のメンバーでもある彼は、屈強な肉体を武器にすぐに頭角を現した。インディアンの羽飾りをかぶって入場し、「WAAA HOOO」と雄叫びを上げながら、相手の首筋にトマホーク・チョップを見舞うのだ。流血も辞さないラフファイトには鬼気迫るものがあった。

 

 ニューヨークのマットでは “カウボーイ”と名乗っていたビル・ワットとも死闘を展開している。チーフ対カウボーイの対決は随分とプロモーターの実入りに貢献したに違いない。

 

 西部劇を見ているような錯覚にとらわれたこともある。西部劇は一部を除き、そのほとんどが白人=善、先住民=悪の勧善懲悪の物語で、白人が中心の騎兵隊からすれば、インディアンは「成敗すべき野蛮人」に過ぎなかった。時にヒール、時にベビーフェイスと役どころを変えながら、彼はリング上でギミックの力を借りて、開拓者という名の征服者たちの欺瞞をしたたかに告発してみせた。

 

 話をメジャーリーグに戻そう。愛称そのものが「差別的」との批判を受けていたクリーブランド・インディアンスは既に「ガーディアンズ」と改称することを明らかにしている。100年以上も苦楽をともにし、多くのクリーブランド市民に愛されたチーム名を捨て去ってしまうことに抵抗はないのだろうか。それとも米国を席巻するキャンセル・カルチャーの前には無力ということか。マスコットキャラクターの“ワフー酋長”は3年前にお蔵入りした。トマホーク・チョップも風前の灯火である。

 

<この原稿は21年11月17日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


◎バックナンバーはこちらから