12月31日、『RIZIN.33』がさいたまスーパーアリーナで行われた。バンタム級日本グランプリは扇久保博正(パラエストラ松戸)が制した。RIZINライト級タイトルマッチは王者のホベルト・サトシ・ソウザ(ブラジル)が矢地祐介(フリー)に2ラウンド3分30秒で一本勝ち。初防衛に成功した。朝倉未来(トライフォース赤坂)は斎藤裕(パラエストラ小岩)に判定勝ち。YouTuberのシバター(フリー)は久保優太(PURGE TOKYO/BRAVE)に1ラウンド2分16秒で一本勝ちした。

 

 2021年に新設されたバンタム級日本GPは、扇久保が初代王者に輝いた。この日の準決勝で井上直樹(セラ・ロンゴ・ファイトチーム)、決勝では朝倉海(トライフォース赤坂)に判定勝ち。頂点に駆け上がった。

 

 扇久保は20年8月、『RIZIN.23』のバンタム級王座決定戦で朝倉海にKO負けを喫しており、決勝でリベンジの機会が訪れた。「前回の対戦は打撃だけで勝負してしまった。“(格闘技を)16年間やってきた全てを出そう”」と臨んだ。

 

 ローキック、カーフキックで距離をコントロールしながら、組んではテイクダウンを狙うなどオールラウンダーぶりを発揮した。朝倉海も「僕の攻撃をしっかり分析し、対応していた。テイクダウンの圧力が強かった」と感じたように扇久保の距離で試合は運んだ。

 

 2ラウンド序盤は朝倉海の左ジャブがヒットし始めたが、それでも扇久保は主導権を握らせなかった。テイクダウンを奪いにタックルを仕掛け、攻め続けた。それは最終ラウンドに入っても変わらない。ゴングと共に朝倉海が頭を垂れていたことからも勝者は判定を待つまでもなかった。3-0のフルマークで扇久保の勝利。トーナメントの前評判を覆す快進撃だった。

 

 タイトルを掴んだ扇久保は、リング上で恋人に公開プロポーズ。人生の伴侶獲得にも成功し、一晩にして多くのものを手に入れた。「僕がリベンジしなければいけない選手はもうひとりいる」と扇久保。18年7月に敗れた堀口恭司(アメリカン・トップチーム)の名を挙げ、現RIZINバンタム級王者との再戦を希望した。

 

 一方、敗れた朝倉海にとって20年の大晦日で堀口に奪われたベルトを取り返すためには、このトーナメントで優勝することがステップとなるはずだった。準決勝で右拳を骨折していたというが、「自分の実力不足」と言いわけにはせず、「応援してくれた方々に申し訳ない」と頭を下げた。

 

 海の兄・未来は20年11月、RIZINフェザー級タイトルマッチで敗れた斎藤にリベンジを果たした。10月のタイトルマッチで王座から陥落してとはいえ、フェザー級戦線をリードする存在だと証明するためにも斎藤へのリベンジは必須だった。

 

 1ラウンドは慎重な立ち上がりに映ったが、2ラウンド目からは朝倉未来がカウンターの右を当てて齋藤をグラつかせる。その後も攻勢を仕掛け、仕留めようとしたが、ここは斎藤が耐えた。最終ラウンドも倒しに行く姿勢は変わらず。斎藤も逆転KOを狙ったが、互いにダウンを奪えぬままゴングを聞いた。

 

「いろいろなプレッシャーがあった。勝ってホッとした」と朝倉未来。「死んでも負けたくないと思った。練習からきついことをしてきて、おかげで強くなれた」と、対戦相手の斎藤に感謝した。「次はフェザー級の頂点を狙いたい」。タイトル戦線に再浮上。20年6月に敗れたクレベル・コイケ(ブラジル)にリベンジというミッションも残っている。

 

 リベンジを狙う矢地を返り討ちしたのがサトシ・ソウザだ。2人は20年8月の『RIZIN.22』でサトシ・ソウザが1ラウンドTKO勝ち。ボンサイ柔術の使い手は打撃でも圧倒した。その後、サトシ・ソウザは21年6月にライト級のベルトを獲得。この日が初の防衛戦となった。

 

「獲るよりも守る方が難しい」とサトシ・ソウザが言うように、格闘技において防衛戦は容易ではない。一時はライト級のエース候補と言われた矢地が、再起して挑んできた。意気揚々の挑戦者に対し、1ラウンドからグラウンドの攻防で優位に立つ。それでも矢地は「寝技に食らいついて耐える」というプランを遂行する。

 

 2ラウンドに入っても多彩な柔術テクニックを披露。矢地は蜘蛛の巣に捉えられたかのように脱出は困難となっていく。腕ひしぎ三角固めで万事休す。腕を極められ、挑戦者はタップした。

 

 サトシ・ソウザは「ワタシも堀口選手のようにBellatorの選手に戦いたい」と榊原信行CEOにアピール。榊原CEOも「世界のライト級選手と比べても遜色ないし、凌駕できると思う。テクニック、フィジカル、メンタル、すべて兼ね備えている」と称えるファイター。静岡県磐田市在住の日系ブラジル人は、ライト級世界最強を証明する戦いに向かう。

 

 2年連続の“シバター劇場”だ。 YouTuber対決となったシバターと久保(妻・サラとの『サラ久保チャンネル』)。登録者数123万人(12月31日18時時点)のシバターが、本職の格闘家としては実績で遥かに上を行く久保に一本勝ちする番狂わせを演じた。

 

 ウエイトで12.5kg以上の差があるとはいえ、久保はK-1ウェルター級世界王者に輝いた実力者だ。21年9月の『RIZIN.30』でMMAに初挑戦し、太田忍(パラエストラ柏)に敗れている。MMAの実績は浅い。シバターに勝算があるとすれば、体重差を生かし、そして久保の距離に付き合わないことだった。

 

 前年に引き続きYouTuberを引き連れて入場したシバター。ヒカル、てんちむ、DJまる、ヘラヘラ三銃士に加え、20年の大晦日に対戦したHIROYA(TRY HARD GYM)も花道を共にした。久保の入場は妻・サラのライブパフォーマンスで対抗した。

 

 ゴングと同時にロープワークを見せるシバターが相手のペースを撹乱した。さらには、いきなりリング上でまさかの土下座。これには久保も「どんな攻撃を出していいか躊躇した」と戸惑いを隠せなかったという。

 

 蹴りで距離を詰める久保に対し、逃げの姿勢を見せる場面もあった。ところが右フックを当ててグラつかせた。久保が反撃に出たが、首相撲で組み合う展開に。次の瞬間、シバターが跳び付き逆十字を狙った。そのまま腕を極めにいくと、たまらずセコンドがバトンを投入。シバターはリング上で喜びを爆発させた。

 

「油断があったのかもしれない」と久保。試合前からシバターの戦法に翻弄された感がある。

「罠を仕掛けたわけじゃないんだけど、結果的にはそういう形になったかもしれない。リングに上がるまでも降りた後も戦い。狙ったわけではないが、結果的に油断してくれたのならラッキー」

 

 これでRIZIN参戦2連勝だ。だが本人に浮かれる様子は見られない。「これは奇蹟。こんなこと3度はない。次は大きなケガをする」と今後の参戦には否定的。その一方で「どうしても出るなら1億円」との要求をするなど“シバター劇場”は試合後も続いた。

 

 那須川天心(TARGET/Cygames)は来年のボクシング転向を表明しており、“RIZINラストマッチ”だった。対戦相手は急遽決まったPRIDEライト級元王者の五味隆典(イーストリンカンラスカルジム)だ。当初は4月のRISEがキックボクシングラストマッチとなる予定だったが、6月に武尊戦を行うため“卒業”を延期した。

 

 2ラウンド、キックなしのスタンディングバウト。ボグシング寄りのルールのエキシビションマッチで、13kg以上の体重差はなんの積極的に打ち合った。6分間の“卒業式”は互いにダウンを奪えず、ドローで幕を閉じた。試合後、那須川はRIZIN、チーム関係者への感謝を述べる挨拶をした。感極まって涙する場面も。その後、榊原CEOがリングに上がり、武尊(SAGAMI-ONO KREST)を呼び込んだ。

 

 6月の決戦に向け、改めて両者が意気込みを語った。

「K-1でもRIZINでもRISEでもなく、中立な新しいリングをつくる。日本格闘技界がひとつになるきっかけになる試合。最高の試合にして必ず勝つので、応援よろしくお願いします。那須川選手、最高の果し合いをしましょう」(武尊)

「僕が最初に対戦表明をした。僕から始めた物語なので、しっかり終わらせてやろうと思います。応援よろしくお願いします」(那須川)

 

 DEEP JEWLSストロー級女王の伊澤星花(フリー)はRIZIN女子スーパーアトム級女王の浜崎朱加(AACC)を破るアップセットだ。1ラウンドは浜崎にグラウンドで上になられる場面もあったが蹴りで迎撃。相手に主導権を握らせなかった。2ラウンドにグラウンドからの連打し、TKO勝ちを収めた。

 

 20年10月にMMAデビューを果たし、わずか8カ月でベルトを巻いた“ジョシカク”(女子格闘技)の新星だ。

「“ジョシカク”は“男子の方が上”と見られるのがすごく悔しい。技術があって、しなやかな動きができるのは魅力。これから“ジョシカク”を引っ張って男子格闘技に負けないぐらいの競技にしたい」

 今回の勝利により、浜崎とのタイトルマッチが組まれる可能性は高い。新時代の到来か。24歳の新星に注目だ。

 

(文・写真/杉浦泰介)