2月1日のキャンプインを前にし、選手たちはそろそろ自主トレを切り上げ、来たるべき"正月"に向け、体と気持ちをつくっているところでしょう。例年、感じることですが、現場を離れていても、やはりこの時期は胸躍るものがあります。では、今月も私の球論にお付き合いください。

 

 負けたら何を言われるか…

 新シーズンに向け、各球団、背番号の変更が行われ、巨人の高卒2年目、秋広優人は55をつけることになりました。巨人の55は言わずと知れたゴジラこと松井秀喜のつけていた番号です。秋広には球団もポスト松井、ホームラン王獲得を期待しての変更でしょう。

 

 で、その秋広は石垣島で中田翔とともに自主トレを行いました。最初にこれを耳にしたときには「大丈夫か」と(笑)。昨季、球界を騒がせた選手ですから、ちょっと心配もありましたが、秋広の真意は「守備を習う」ことにあったと思います。

 

 中田はゴールデングラブ賞を4度獲得したことがあり、ファースト守備を学ぶにはうってつけです。背番号55ということで、どうしても打撃にばかり注目がいきがちですが、1軍で使ってもらうには守備がしっかりとできることがマストです。打撃は水物と言われるように、ちょっとでも調子が悪くなったら下げられます。でも守備が安定していれば、1軍に置いてもらえます。その意味で秋広が、まあ彼の真意はわかりませんが、中田のところで守備を鍛えようという意識を持っているのは良いことだと思います。

 

 背番号55ということでプレッシャーはあるでしょうが、それを乗り越えてもらいたいですね。私もプロ入り当初は5という、とてもありがたい番号を頂きました。巨人ではV9戦士の黒江透修さん、その後はメジャーリーグでゴールドグラブ賞に輝いたデイブ・ジョンソンがつけていた番号です。

 

 そのプレッシャーたるや半端ではなかったですよ。ノックを受けていると、後ろには中畑清さん、篠塚和典さんらがいて、そういう先輩の視線も痛かった。中畑さんなんてエラーをしようものなら「へいへーい、背番号が泣くぞ」とか「番号も軽いとプレーも軽いな」とか、イジってくるわけですよ。内心、「全然、軽くないわい」と思ってましたよ。結局、背番号5は1年限りで翌年から河埜和正さんがつけました。

 

 私は43になったんですが、まあなんてことのない数字で、特に好きではなかったんです。でも、3年目の80年に43を背負って1軍に上がり、ヒットもホームランも記録しました。そうなると43も悪くない番号だと思えてくる。それでその年の12月、競馬の有馬記念に誘われた。競馬なんてやったこともないし、わからないから「じゃあ4と3で」と。当時は枠連しかありませんから「枠連3-4」を買ったら、見事に的中。2000円が4万円くらいになったことを覚えています。それで43も悪くないな、と(笑)。

 

 自分の昔話ばかりしても仕方ないので、秋広に話を戻せば、守備がしっかりしていれば1軍に置いてもらえますし、チャンスも増えます。しかも彼は2メートルと長身ですから、これは他の内野手にとって安心感がありますよ。186センチの山本功児さんとか191センチの駒田徳宏とか大きな一塁手は結構、活躍しているでしょう。秋広も背番号のプレッシャーなんて気にせず、大きく育ってほしいものです。

 

 もうひとつ昔話をすれば、私が1軍に上がった80年は王貞治さんの現役最終年でした。内野ゴロをさばいて王さんに送球するのは、それは緊張しましたよ。変なボールを投げちゃいけない、とね。しかもセカンドの守備位置から一塁ベースを見ると、そこに世界の王さんがいて、その先のベンチにはミスターこと長嶋茂雄さんがいる。「もしかしたらオレ、とんでもない場所にいるんじゃないのか」と思い、プロ野球選手になったんだなと実感した瞬間でもありました。

 

 さて、昔話の次は未来の話をしましょう。キャンプインもまだですが、2022年の順位予想です。「日本一早い」と書こうとしましたが、岡田彰布さんが年末に週刊ベースボール誌で「日本一早い順位予想」をしていました。日本で2番目、そこそこ早い私の順位予想は以下のとおりです。

 

◎セ・リーグ
1位 東京ヤクルト
2位 横浜DeNA
3位 巨人
4位 中日
5位 阪神
6位 広島

 

◎パ・リーグ
1位 オリックス
2位 福岡ソフトバンク
3位 千葉ロッテ
4位 東北楽天
5位 埼玉西武
6位 北海道日本ハム

 

 両リーグで最下位にあげたチームのファンの方に、まずは申し訳ありません、と。でも、広島、日本ハムともに今季も厳しい戦いが予想されます。セ・リーグから述べれば、まず広島は鈴木誠也の動向が不確定ですが、彼が抜ければ約100打点分がマイナスになります。4番候補として何人も名前があがっていますが、穴を埋めるのは容易ではないでしょう。

 

 今季、僅差で優勝を逃した阪神を下位にしたのは守護神スアレスが抜けた穴が大きいし、内野の守備面でも不安がある。で、4位の中日は立浪和義新監督効果で、チームがグッと引き締まるかもしれません。巨人をAクラスにしていますが、昨季終盤の巨人ベンチの暗い雰囲気を見ると、なにかチームとしての一体感が感じられないことがありました。もしかするとBクラス転落もあるかもしれません。

 

 横浜DeNAは前回のコラムで述べたように、首脳陣に「日本一」を知る人材が増えたことが功を奏するでしょう。石井琢朗、鈴木尚広、そして斎藤隆。特に斉藤はNPB、メジャーリーグと様々な野球を経験したことで、野球をよく知っています。首脳陣が選手の意識を変えられれば、DeNAは優勝争いをすると睨んでいます。

 

 ヤクルトは若手とベテランのバランスが良く、連覇も十分にあります。村上宗隆のような若手が声を出すのは当然ですが、ベテランの青木宣親も率先してチームを引っ張っている。青木のようなベテランが先頭に立って声を出すチームは強いんですよ。それとヤクルトでは正捕手・中村悠平の存在が大きい。昨季2割7分9厘という成績でしたが、その数字以上に彼はなんでもできる器用さがあります。右打ち、バント、そして勝負強さ。こういうバッターが6番にいると打線が機能します。

 

 パ・リーグは今季も混戦です。オリックスの連覇と予想しましたが、4位の楽天まではひっくり返る可能性があります。ソフトバンクは選手層の厚さから、今季は巻き返してくるでしょう。ただ選手の入れ替わり時期に来ているので、そこは藤本博史監督の手腕の見せ所です。1軍から3軍まですべてを知る藤本監督ですから、思い切った若手の起用などでチームを活性化し、ペナント奪還を目指してほしいものです。

 

 西武はここ数年、浅村栄斗、炭谷銀仁朗、菊池雄星、秋山翔吾と投打の要が次々と抜けながら奮闘していましたが、昨季はそれも限界だったようです。ただ西武は伝統的にそういう血の入れ替え、穴埋めに長けた球団です。今季はまだ苦しい戦いかもしれませんが、新戦力の登場に期待したいものです。

 

 さて、最後にオフの話題を独占した新庄ハムです。オフの主役でしたが、最下位にあげます。マスコミは新庄効果に期待するという論調ですが、それは営業面では大成功でしょう。でも、新庄新監督が注目を浴びれば浴びるほど、他球団からのマークは厳しくなります。

 

 というのも、あれだけ言いたい放題の新庄監督ですから、ペナントで日本ハムを相手に負けたら何を言われるか。そして新聞・テレビにどう取り上げられるか。まあ、対戦球団としては気が気じゃない。というか、絶対に負けられませんよ。

 

 伊原春樹さんが14年に2度目の西武監督を務めたときのことです。伊原さんはその年のキャンプで「練習時間の短縮」を打ち出しました。14時頃には切り上げ、夜間練習も禁止して、空いた時間は「本を読め」と。そういう報道を目にした当時楽天のコーチだった私をはじめ、他球団の首脳陣は「こりゃ負けられんな」と。実際に口にはしませんでしたが、皆が西武包囲網をひきましたよ。

 

 そりゃそうですよね、「練習をしてない」球団に負けたら何を言われるか……。それと同じことが新庄ハムでも起きる可能性がある。たぶん、新庄フィーバーを見ていた他球団の首脳陣は、14年の我々と同じ気持ちだと思います。交流戦で戦うセ・リーグ球団も同じでしょう。でも、その包囲網を新庄監督は乗り切るかもしれない。そうなったら拍手喝采です。

 

 日本ハムには天理の後輩・逹孝太が入ったこともあり余計に注目しています。逹は新庄監督のアドバイスに対し「自分のルーティンがありますから」と答えるなど図太いところがある。大物の素質は十分ですが、夢であるメジャーの前にまずは足元をしっかりと見つめ、一歩ずつ前に進んでもらいたいものです。

 

<鈴木康友(すずき・やすとも)プロフィール>
1959年7月6日、奈良県出身。天理高では大型ショートとして鳴らし甲子園に4度出場。早稲田大学への進学が内定していたが、77年秋のドラフトで巨人が5位指名。長嶋茂雄監督(当時)が直接、説得に乗り出し、その熱意に打たれてプロ入りを決意。5年目の82年から一軍に定着し、内野のユーティリティプレーヤーとして活躍。その後、西武、中日に移籍し、90年シーズン途中に再び西武へ。92年に現役引退。その後、西武、巨人、オリックスのコーチに就任。05年より茨城ゴールデンゴールズでコーチ、07年、BCリーグ・富山の初代監督を務めた。10年~11年は埼玉西武、12年~14年は東北楽天、15年~16年は福岡ソフトバンクでコーチ。17年、四国アイランドリーグplus徳島の野手コーチを務め、独立リーグ日本一に輝いた。同年夏、血液の難病・骨髄異形成症候群と診断され、徳島を退団後に治療に専念。臍帯血移植などを受け、経過も良好。18年秋に医師から仕事の再開を許可された。18年10月から立教新座高(埼玉)の野球部臨時コーチを務める。NPBでは選手、コーチとしてリーグ優勝14回、日本一に7度輝いている。19年6月に開始したTwitter(@Yasutomo_76)も絶賛つぶやき中。2021年4月、東京五輪2020の聖火ランナー(奈良県)を務め、無事"完走"を果たした。


◎バックナンバーはこちらから