平野歩夢選手(男子スノーボードハーフパイプ)、高木美帆選手(女子スピードスケート1000メートル)の金メダル、ロコ・ソラーレ(女子カーリング)の銀メダルなど北京冬季五輪は盛り上がりました。五輪ばっかり見ていたら、いかんいかん(笑)。もう2月下旬ですね。それでは、今月も私の球論にお付き合いください。

 

 延長12回制度が復活

 

 今季から延長12回制が復活です。セパ合わせて858試合中102試合が引き分けと、ドロー試合が多かったことが背景があるようです。そもそもですが、引き分けが少ないチームには素晴らしいクローザーが付き物です。移籍してしまいましたが昨季10分けの阪神にはロベルト・スアレス(20年25セーブ、21年42セーブ)が、12分けの広島には栗林良吏(21年37セーブ)がいます。

 

 延長12回制の導入となると、クローザーを同点の場面でマウンドに送り出すのか、どうなのか……。同点の場面だと勝ちパターンの投手をつぎ込みにくくなります。昨季より一層、チーム全体の“投手力”がモノを言うシーズンになりそうですね。

 

 またちょっと、攻撃の質も変わってくるかもしれません。延長に入り、後攻だったら1点でも勝ち越してしまえばサヨナラ。ワンアウトでも送りバントのサインが出るケースが考えられます。一方で先攻の場合、1点の勝ち越しでは不安でしょう。裏で複数失点を喫したらもう終わり。ひょっとしたら、延長に入ったら送りバントのサインを控える監督もいるかもしれませんね。2点、3点と取っておきたいと考えるのは必然ですから。こういったところも、今季は見てみたいと思います。

 

 若手とベテランは“近く”で

 

 さてさて、この時期ならではの話も。千葉ロッテの佐々木朗希が19日の北海道日本ハムとの練習試合で163キロを記録しました。やっぱり、若手が明るいニュースでチームを引っ張るのはいいことです。ひと昔前だとキャンプ、オープン戦で若手が頑張るものの最後の一週間でベテランが出てきてレギュラーを渡さないのが通常の流れでしたが、今は違いますね。ベテランはうかうかしていると、若手にポジションを取られちゃいます。

 

 福岡ソフトバンクは練習環境の作り方がうまい球団です。3軍はC班ですが、1軍と2軍という線引きを明確にせず、うまくメンバーをミックスさせて「A班」「B班」と分けるんです。そして、この3チームには常に歩いて移動できる近距離で練習をさせます。ファンの皆さんにとっても歩いて移動できる距離で練習している方が見学しやすいじゃないですか。練習で汗水たらす若手の姿を見てベテランは刺激を受ける。その逆も然りです。柳田悠岐や松田宣浩は声を張り上げ、練習に打ち込みます。こんな姿見たら、若手もピリッとするでしょう。ケージ横で彼らのバッティングを見るだけでも価値があります。

 

 上達の近道は物真似です。僕が巨人に入りたてのころのエピソードをひとつ紹介します。当時は、まだそんなにバッティングピッチャーが球団にいなかった時代。内野手は比較的コントロールがいいから「オマエ、オレの特打ちで投げてくれ」と先輩から頼まれることがありました。僕は王貞治さんと張本勲さんのバッティングピッチャーを務めたことがあります。これは僕にとって大きな財産です。王さんは一本足の構えで球を吸い寄せるように引きつけてカーンと打つ。張本さんはアウトコースに投げたらパチンとレフトへ。インコースに投げればカーンとライトへ。

 

 何より、バッティングピッチャーを務める利点は“物理的な距離”にあります。マウンドから投げると18.44メートル離れていますが、バッティングピッチャーはマウンドから投げません。もっと近く、だいたい12メートルあたりから投げるんです。こんな間近で先輩たちのバッティングを見られる機会は貴重ですよ。

 

 今の時代、各球団に専門のバッティングピッチャーがいますから、こんな経験は積めないかもしれません。とはいえ若手とベテランは互いに刺激し合いオープン戦へと突入していくでしょうから、面白くなってきそうですね。

 

 打撃の天理

 

 最後に母校の天理高校についても触れなくてはなりません。今年も春のセンバツに出場します(3年連続26度目)。2021年秋の奈良県予選は準決勝敗退。秋季近畿地区大会には県3位で出場しました。昨秋の明治神宮大会で大阪桐蔭が優勝したことにより、今年のセンバツの近畿枠は7でした。高校生は2週間あればグンと成長するんだなぁと改めて感じました。だって、県で3位の学校が近畿地区大会で準決勝までコマを進めたわけですからね。若者の伸びしろと成長スピードは恐ろしいです。

 

 今回のチームは打線がウリです。毎日新聞の情報だと県予選と地区大会の8試合でチーム打率は3割6分。中でもキャプテン・戸井零士と4番・内藤大翔は共に打率4割3分3厘、ふたりで18打点を記録しているそうです。4番の内藤のお父さんはJリーグ・鹿島アントラーズなどで活躍した内藤就行さんです。僕ら世代の人間からすると「ウソだろ!?」と(笑)。Jリーグが誕生し、約30年。サッカー人気が高まっていく中、お父さんが元Jリーガーでよくぞ野球をやってくれました! 冗談はさておき、3月はプロアマ問わず、若手から目が離せません。

 

<鈴木康友(すずき・やすとも)プロフィール>
1959年7月6日、奈良県出身。天理高では大型ショートとして鳴らし甲子園に4度出場。早稲田大学への進学が内定していたが、77年秋のドラフトで巨人が5位指名。長嶋茂雄監督(当時)が直接、説得に乗り出し、その熱意に打たれてプロ入りを決意。5年目の82年から一軍に定着し、内野のユーティリティプレーヤーとして活躍。その後、西武、中日に移籍し、90年シーズン途中に再び西武へ。92年に現役引退。その後、西武、巨人、オリックスのコーチに就任。05年より茨城ゴールデンゴールズでコーチ、07年、BCリーグ・富山の初代監督を務めた。10年~11年は埼玉西武、12年~14年は東北楽天、15年~16年は福岡ソフトバンクでコーチ。17年、四国アイランドリーグplus徳島の野手コーチを務め、独立リーグ日本一に輝いた。同年夏、血液の難病・骨髄異形成症候群と診断され、徳島を退団後に治療に専念。臍帯血移植などを受け、経過も良好。18年秋に医師から仕事の再開を許可された。18年10月から立教新座高(埼玉)の野球部臨時コーチを務める。NPBでは選手、コーチとしてリーグ優勝14回、日本一に7度輝いている。19年6月に開始したTwitter(@Yasutomo_76)も絶賛つぶやき中。2021年4月、東京五輪2020の聖火ランナー(奈良県)を務め、無事"完走"を果たした。


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