先日、都内の中学校でパラスポーツの活動のお話する機会をいただきました。私たちSTANDがパラスポーツを通して共生社会を目指し、取り組んできた活動について話しました。

 

 終了後、参加者の生徒さんたちから質問や感想をたくさんいただきました。感謝の気持ちでいっぱいです。いただいた質問や感想は、どれも多くのことを教えてくれるものばかり。私にとって、とても勉強になる機会となりました。

 

 ある生徒がこんな感想を書いてくれました。

「私はこれまで、“失敗はしてはいけない”と思っていました。でも伊藤さんのお話を聞いて、“早くたくさん失敗しておけばいいかも”と思いました。失敗を目指して頑張ります」

 

 もちろん、私は「失敗を目指してください」とは言っていません。ですが、こうした言葉を紡ぎだしてくれたことが、本当に嬉しかったです。

 

 私が当日、お話したのは以下のような趣旨のことでした。

「やってみないとわからない。パラスポーツの事業は、前例がなかったから、経験も知見もないから。だから、やってみないとわからない。初めて生中継をした時には『おまえら、障害者をさらし者にしてどうするつもりだ』とご批判を受けました。果たして、これは失敗だったのでしょうか?」

 

 失敗かどうかではなく、“やってみないとわからない”と、失敗を恐れずチャレンジすることの大切さを伝えたくて、この話をしました。

 とはいえ“失敗してはいけない”と思う気持ちも理解できないわけではありません。

 

 数十年前、パラスポーツの現場で活動するボランティアメンバーが毎週交代で、ラジオ番組に出演する機会がありました。収録は毎月1回。4人が集合し、1人1本ずつ収録します。5分の番組の収録に1時間以上かかったAさん。真っ赤な顔でスタジオから出てくると「私、だめだめです」と、ひどく落ち込んでいる様子でした。一方、Bさんは、あっという間に終わって出てきました。まわりのメンバーからは、「速いねー、すごいねー」と褒められていました。

 

 ところが、後日、番組を担当したディレクターさんに話を聞くと。

「Aさんはやればやるほどに伸びる。いろんな話し方にチャレンジしていて、少しアドバイスすると違う話題を入れたり表現を変えたりする。もちろん、途中でたくさん失敗もする。でも、どんどんいい話になっていく。こちらも面白い。“もっともっと”と思い長くなってしまうんです」

 

 ではBさんは?

「最初考えたとおりに、失敗しないように無難に話していました。同じことを繰り返すので、これ以上変わらない。だから収録が速いんです」

 どちらが良い、悪いではありませんが、とても興味深いお話でした。

 

“やってみないとわからないから面白い”と、私はSTANDでの活動をはじめ、これまで行動してきたように思います。「これ、絶対できます。成功しますからどうぞやってみて」と言われた場合、どうでしょうか? 私は意欲が湧きません。だって上手くいくってわかっているなんて、面白くないじゃないですか。

 

「失敗を目指して頑張ります」

 中学生の感想は、私に新鮮な思いを与えてくれました。“やってみないとわからない。だから面白い”。中学生になった気持ちでどんどんやってみようと思った次第です。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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