井上康生、鈴木桂治といった日本が誇る五輪金メダリストが相次いで敗れるなど、日本勢の不振が続いた昨年の世界柔道選手権(2007年9月13〜16日、ブラジル・リオデジャネイロ)。最終日に登場した男子無差別級の棟田康幸(警視庁)が、5試合オール一本勝ちという充実の内容で優勝を果たした。日本男子に唯一の金メダルをもたらすとともに、北京五輪代表権争いでも大きくアピールした棟田に、二宮清純がインタビュー。北京五輪に向けての思いなどを語ってもらった。
二宮: ブラジルの世界選手権は、すべて一本勝ちで金メダルを獲得という素晴らしい結果でした。決勝で勝ったときは、「やった」という感じ? それとも「ホッとした」?
棟田: いや、両手を上げて「やった」という喜びは全くなかったですね。内容的には納得できません。これからもっともっと鍛えていかないといけない、という気持ちが強かったです。

二宮: 04年の前回のアテネ五輪では代表になれませんでした。最終選考となった4月の全日本選手権の準決勝で、鈴木桂治選手に負けたとき、ゴツン拳を合わせましたね。あの時は何か声をかけたんですか?
棟田: 次の試合(決勝)で勝ってほしいと思ったので一言だけ、「勝てよ」と言いました。

二宮: 観客からもすごい拍手でしたね。あれはスポーツマンらしい良いシーンだったなァ。
棟田: 勝ち負けは向こうに転がったわけですから。実際のところ、桂治に勝ってほしいと思いましたし……。

二宮: でも悔しい気持ちもあったでしょう。「棟田は優しすぎる」とか言われませんでしたか?
棟田: そういうふうにも言われたし、「柔道がきれいすぎる」という見方もあった。でも自分のスタイルを変える気はないですし、変えてしまったら、自分の良さもなくなってしまうと思っています。

二宮: なるほど、それは頑固さでもありますね。アテネ五輪の代表切符を逃して、ご自身の中で一番成長したことは?
棟田: 練習時間の中で目一杯やって、なおかつ、自分の中で考えるようになりました。前もやっていたことはやっていたんですけど、今まで以上に理解して、噛み砕いてやるようになりました。

二宮: 4年前より成長しているという実感はありますか?
棟田: そうですね。自分がどういう状態にいるときに一番軸が強いか、など理論的に、より精度の高い技を考えるようになりました。

二宮: 今年は北京五輪イヤーです。まだ五輪代表の経験はありませんが、五輪の舞台とは、棟田選手にとってどういう場所ですか?
棟田: 小さい頃は「観戦するもの」だったんですけど、今は「出場して、一番高いところに立つ」舞台ですね。特別な思い入れもないですし、出るからにはやらなきゃ、という気持ちでいます。

<3月5日号(2月20日発売)の『ビッグコミックオリジナル』(小学館)二宮清純コラム「バイプレーヤー」にて、棟田康幸選手のインタビューが掲載されます。そちらもぜひご覧ください!>
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