1年前と今で、これほど立ち位置が変わったプレーヤーはいるだろうか。シーホース三河の西田優大は新潟アルビレックスBBから移籍し、チーム内での役割も変わった。日本代表(AKATSUKI FIVE)における序列も“代表候補”から脱却しつつある。ここまで劇的な変化を見せるとは、失礼ながら今年2月に取材した際、思ってもみなかった。

 

 遠慮が解けた後の活躍

 

 東海大学卒業前に入団した新潟では28試合に出場し、1試合平均5.4得点を挙げた。先発は9試合だったが1試合平均20分25秒。プレータイムは与えられた。特別指定選手だった名古屋ダイヤモンドドルフィンズ時代の倍だが、2ケタ得点は1試合のみ。西田本人としても満足できないシーズンだったのかもしれない。

 

 B.LEAGUEのシーズン終了後に行われた東京オリンピック。女子日本代表が銀メダルを獲得し、スポットライトを浴びたのに対し、男子日本代表は3戦全敗で1次リーグ敗退と結果が残せなかった。候補選手として事前合宿には参加した西田だが、12人の最終メンバーリストの中に「西田優大」という名はなかった。

 

 東京オリンピックが行われる約1カ月前、2021年7月に西田は新潟を離れ、三河と新たに契約を結んだ。当時の三河は金丸晃輔(現・島根スサノオマジック)、川村卓也(現・西宮ストークス)という西田と同じSGを主戦場とする選手がチームを去っていた。「自分のポジションの選手が抜けたことは、その意味ではいいタイミングだったのかもしれません」。プレー機会に飢えていた西田にとって、この移籍はチャンスだった。

 

「彼はまだ若く成長しなければいけない時期。ある程度、のびのびやらせたい」と西田の育成方針を語る鈴木貴美一HCからは「若いんだから1年を通して、どんどんミスをして成長していけばいいんだよ」と諭されたという。それは鈴木HCが「彼の良さが出ていないような気がしていた」と、加入前の西田を見て感じていた思いに起因するのだろう。鈴木HCはこう続ける。

「遠慮してパスを選択した時は『今の場面は打ちなさい』と注意します。若い選手が伸びない原因は上の選手に気を遣ってプレーすることです。西田選手も当初は遠慮していた部分があったが、練習や試合を重ねるごとに吸収していきました」

 

 彼の意識が変わったであろう、ある日のことだ。鈴木HCによれば、「エースにならなきゃいけないよな」と声を掛けると、“エッ?”と驚いたリアクションを見せたという。鈴木HCの実感としては“いいんですか?”というものだった。チーム最年少の22歳(加入当時)。それまでは新加入の選手として遠慮があったのかもしれない。しかし、その“気遣い”が彼の思い切りを、そして成長を妨げていた。

 

 三河での、のびのびとしたプレーはスタッツにも表れている。3月28日現在、西田は全39試合でスタメン出場し、1試合平均11.6得点、2.0リバウンド、2.7アシストを挙げている。プレータイムはもちろん得点、アシストなどすべての部門でキャリアハイを更新する勢いだ。2ケタ得点を挙げたのは26試合。出場試合の6割以上にも及ぶ。さらに被ファウルも1試合平均2.21個。新潟時代の1.18回と比べても相手のマークが厳しくなっている中での成績を残していることになる。

 

 ホーバスHCが認めるレベルアップ

 

 今年2月にインタビューした際、今季のスタッツについて聞くと、こう返ってきた。

「1試合平均2ケタ得点(11.4点)と数字は残せている部分もありますが、スリーポイントの成功率はまだ3割(30.8%)。最低35%までは上げたい。ここぞという場面でミスをして勝ち切れない試合もありましたし、まだまだこれからです」

 

 昨秋の代表活動から3カ月が経った2月の代表合宿で、日本代表のトム・ホーバスHCは西田をこう評していた。

「(昨年秋の)代表活動から三河に戻ってからも高いレベルをキープしてくれるかなと思っていたら、レベルアップしていました。今、すごくいいバスケをしている」

 成長著しい西田は、指揮官の期待に応えるかたちで2月26日のW杯アジア地区1次予選window2、チャイニーズ・タイペイ代表戦はゲームハイの27得点を挙げた。76-71でホーバス体制初勝利に貢献した。

 

 再び三河に戻ると、3月5日の広島ドラゴンフライズ戦で20得点。23日の名古屋ドルフィンズ戦ではキャリアハイを更新する30得点を挙げるなど、チャンピオンシップ(CS)出場を目指すチームをエース級の活躍で牽引している。3月だけを見ればスリーポイントの成功率は42.9%をマーク。トータルでは33.1%に引き上げ、最低限の目標に近付けている。

 

 これまで西田をスリーポイントシュートとディフェンス力に長けた“3&Dプレーヤー”と強調してきたが、その枠に収まりきらないオールラウンドな能力が光る。ゴール下へ切れ込むドライブ、周りを生かすアシスト能力も彼の魅力となっている。

「アシストが増えたのは今シーズンからです。ボールを持つ時間も昨シーズンと比べて1.5倍くらい増えました。ボールを持った時の判断力は身に付いてきていると思います」

 

 だからこそ“器用貧乏”とならないようにも気をつけている。「スリーポイントとディフェンスに長けた選手は他にもいる。僕はピック&ロールを使えるし、ドライブで切り込むこともできます。ただシュート、ディフェンス、ドライブという3つの武器がどれも中途半端。これといって突出したものがない」。現状に満足する男ではない。「まずはシュートを極める」と精度向上を目指す。

 

“3&Dプレーヤー”からスコアラーへ。エースへの階段を登ることで見えてくる景色もあるはずだ。当面の目標は三河のCS出場。日本代表としては来年にフィリピン、日本、インドネシアで共催されるW杯の最終メンバー入りだ。「そこを達成できればパリも見えてくる」と西田。1年後、その先はどう化けているのか。今後の成長ぶりに目が離せないプレーヤーである。

 

(おわり)

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西田優大(にしだ・ゆうだい)プロフィール>

1999年3月13日、徳島県海部郡海陽町市出身。小学3年でミニバスチームに所属し、本格的にバスケットボールを始める。海陽中学、福岡大学附属大濠高校を経て、東海大学に進学した。東海大在学中の2019-20シーズンは名古屋ダイヤモンドドルフィンズに特別指定選手として加入。大学卒業前の2020年12月には新潟アルビレックスBBとプロ契約を結んだ。2021-22シーズンよりシーホース三河に移籍。日本代表としては2017年に候補強化合宿メンバーに選ばれて以降、コンスタントに招集されている。2021年東京オリンピック代表候補には選出されたものの、本大会出場はならなかった。スリーポイントシュートとディフェンスを得意とするSG。身長190cm、体重90kg。背番号は19。

 

(文/杉浦泰介、写真/© SeaHorses MIKAWA co.,LTD)

 


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