3月27日(日)、桜が咲く中、2年ぶりに体験会を開催しました。新型コロナウイルスの影響ですべてが中止・延期――。やっとの再開となり、当日は少し緊張気味で会場に向かいました。

 

 会場は日ごろ、私たちの活動をサポートいただいている清水建設株式会社が代表企業として運営を行う「かみす防災アリーナ(神栖防災アリーナPFI株式会社)」でした。

 このアリーナは、防災機能を持つ多目的施設です。災害時には地域の防災拠点となり、通常時にはスポーツと文化の賑わいを創出する市民の方々の憩いの場です。

 この日は「かみす防災アリーナ祭り」でのイベントの一つとして体験会を行いました。

 

 今回はゴールボール体験会でした。

 講師はロンドンパラリンピックで日本を金メダルに導いた監督の江黒直樹さんと、当時の日本代表メンバー安達阿記子さん(リーフラス株式会社所属)。お二人には当日、金メダルを披露していただき、小さい子どもからご高齢の方までいた参加者の方たちが目を輝かせていました。

 

 まずお二人からのお話。競技のルールを説明することがメインではありません。

 ボールに鈴を入れることは耳で聞いてわかるように。床のラインにはたこ糸を張り付け、手で触ってわかるようにする。“見えないからできない”ではなく、“どうやったらできるか”が大事、というお話です。その後、実際目隠しをしてプレーすると見えなくてもスポーツができることを体感できます。すると、見えないことを想像し、見えない人に思いを馳せることになるのです。

 

 当日の体験会中、こんな感想が聞こえてきました。

「声を出すことの大切さを知った」

「すごいね、声の力って」

「声があるのと(聞こえるのと)ないのでは全然違う」

「普段、声をおろそかにしているわね」

「これは集中できる、集中力使うわ」

 

 一味違う感想を聞けた気がします。ゴールボールをはじめとする視覚を制限して行うスポーツの体験会は「難しい」「怖い」などネガティブな感想に終始してしまうリスクがあるからです。

 

 講師のお二人は体験会の中でもこう呼びかけます。

「普段も名前を呼び、きちんと返事することを大事にしてください」

「アイマスクを持って帰り、ご家族やお友だちに体験したこと、見えない人のことを話してください」

 

 体験が終わって、感想を聞きました。

「普段、見えない人が怪我をしないように気をつける」

「目隠しをしているとき肩を叩かれたらすごくびっくりしたから、先に名前を呼んだ方がいい」

「まちのなかで困った人がいたら助けたい」

「見えない人にとって、音がすごく大事だ」

 

 ゴールボールの体験会を開催すると、「ボールをキャッチできたときが嬉しい」「うまくできなくて悔しい」という感想が多くなりがちです。もちろん、楽しむことはとてもとても大切。お二人の指導は、まさに「スポーツが楽しい」の先に、共生社会を見据えている。体験を通して見えない人のことを想像すること、その人とコミュニケーションすることへと導いてくれるのです。

 

 参加者の方々に、短い時間で、そのことを見事に伝えていただきました。

 お話だけ、見えない体験だけでは、ここまで伝わりません。スポーツの楽しい体験があるからこそ、気づきを得られる。まさに体験会の醍醐味です。

 

 イベント終了後、4~5歳の男の子が江黒さんのところに「とても楽しかったです。ありがとうございます」と感謝を伝えに来ていました。また、参加したお子さんの保護者の方からも「子どもにとってとてもいい体験になりました」とも言っていただきました。

 

 2年ぶりの体験会に私は大満足。心地よい疲れで帰路につきました。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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