第139回 手をつなぐだけで、できるはず。だれもがスポーツできると感じる環境

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 スポーツ基本法の前文には<スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、全ての人々の権利>と記されています。しかし、2021年11月にスポーツ庁が実施した「スポーツの実施状況等に関する世論調査」では、成人の週1回以上のスポーツ実施率は56.4%にとどまっています。

 

 同じくスポーツ庁が、同年12月に実施した「障害者のスポーツ参加促進に関する調査研究」によると、障害のある成人の週1回以上のスポーツ・レクリエーション実施率は31.0%です。

 以上のことからも分かるように、障害のある人のスポーツ実施率は、まだ低いのが現状です。

 

 いくつかの地域の特別支援学校でお話を聞きました。特別支援学校の児童生徒数は1955年が2万8142人、1990年が9万3497人、2020年が14万4823人。人口減少に転じてからも増加し続けています。

 

 部活動に積極的に取り組んでいる学校もあります。しかし運動部やクラブがある学校は、「小学部」が9.4%、「中学部」が37.2%、「高等部」が58.6%(「特別支援学校のスポーツ環境に関する調査」文部科学省)であるものの、所属・参加する児童生徒は少ないのが実情です。

 

 全員にスポーツを好きになってほしいということではありません。障害のある児童生徒の中にはスポーツを「するもの」ではなく「観るだけのもの」と捉えている人も少なくありません。「するもの」でもあることが感じられる機会を用意することこそが大切なのです。

 

 ある学校では、放課後、部活動を始めたり、希望者に運動する時間を設けたりしました。しかし参加者はほんの数名。これはコロナ禍ということを鑑みてもあまりに少ないと言わざるを得ません。

 

 参加しない理由は様々です。普段、体育の授業を見学している児童生徒には、そもそも運動の習慣がありません。中にはスポーツに興味が湧かない人も、できる気がしない人もいるでしょう。指導する側からは「様々な種類の障害のある子どもが集まると、どのように指導したらいいか分からない」という声も聞きます。

 

 加えて、1人で帰宅できない児童生徒の保護者が迎えに来る時間を部活動の時間に合わせられないケースもあります。安全管理上、車での送迎を家族以外の人が行うのは難しい。また運動するには1対1のサポートを必要とする人に対しては、それを行う人がいないという理由もあります。他にも様々な理由があり障害児が運動する機会は増えないのです。

 

 そこで着目すべきは、各地域にある障害児に関する様々な取り組みです。例えば、放課後等デイサービスでは、児童生徒の学校・自宅の送迎をし、その間の時間は施設で預かっています。部活動後に学校に迎えに行ってもらうことも可能なはずです。総合型地域スポーツクラブには、いろいろなスポーツ、運動指導のノウハウがあります。社会福祉協議会のボランティアセンターには、ボランティア募集などでスポーツを支える側の人たちを集めるサポートができます。どうですか? 少しずつ重なっていたり、かすっていたり、しませんか?

 

 各地域にはきっと、もっともっといろいろな機能があるのです。つまり新規で組織を立ち上げる必要はなく、既に取り組まれている事業を連携させるだけで、スポーツをする機会をつくることは可能になるはずです。その地域実情に合わせて、組み合わせはいくつものパターンがあります。それぞれが手をつなぐだけで、子どもたちの笑顔につながる可能性は無限にある。そう思うと気持ちが明るくなってきます。

 

(取材協力:新潟県新発田市スポーツ推進課

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。
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