9日、ボクシングのダブル世界戦がさいたまスーパーアリーナで行われた。WBAスーパー&IBF世界ミドル級王座統一戦はIBF王者ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)がWBAスーパー王者の村田諒太(帝拳)を9ラウンド2分11秒TKOで下した。ゴロフキンはIBF王座2度目の防衛、WBAスーパー王座を奪取し、2団体統一王者となった。WBO世界フライ級タイトルマッチは王者の中谷潤人(M.T)が同級2位の山内涼太(角海老宝石)を8ラウンド2分20秒TKOで破り、2度目の防衛に成功した。

 

 日本最大級のビッグマッチと謳われた一戦は、バチバチの殴り合い。リング上で火花を散らす激闘となった。ロンドンオリンピック金メダリスト、WBAスーパー王者の村田が日本の舞台で迎え撃ったのが、かつて3団体統一を果たした現IBF王者ゴロフキン。40歳の誕生日を迎えたばかりの世界的スーパースターは前日計量で筋肉の鎧を纏った姿を披露した。

 

 序盤から積極的に前へ出たのは村田だった。左ボディ、右ストレートで鎧を壊しにいった。埼玉に詰め掛けた1万5000人の観衆を沸かせる。ゴロフキンも突き刺すような左ジャブで対抗。村田の顔を的確に捉え、ペースを与えなかった。

 

 2ラウンド、3ラウンドも村田がジワリジワリと前に詰める展開。傍目には彼が押しているように映ったが、村田本人の感覚はこうだったという。
「右ストレートをいなすように、強く当たる距離を前に詰めて勢いを殺す。右を打っても暖簾に腕押しという感じ。これが打たれ強いと言われる所以なのか。右の感覚がどうしても合わなかった。ボディに対しては腰を引いて当たらないようにしてきた。相手が一枚も二枚も上だった」

 

 一方のゴロフキンは序盤の戦い方について、「最初は見守っていたわけではない」と振り返る。「距離感が掴めてきた」。ラウンドを重ねるごとに村田を追い込んでいった。ガードの隙間を様々な角度から繰り出すパンチで狙い打った。ダメージが蓄積していく村田。ロープを背負う場面も目立ってきた。

 

 結末は9ラウンドに訪れた。2分過ぎ、ゴロフキンの右フックを浴びた村田がよろめいた。そのまま膝から崩れ落ちた。村田にとってはプロ入り初のダウンだ。セコンドからタオルが投げ込まれ、レフェリーが試合を止めた。この瞬間、ゴロフキンが2団体統一王者となり、村田はWBAスーパー王座から陥落した。

 

 試合前から互いにリスペクトを公言してきた2人。試合後、何度も抱き合った。ゴロフキンは自らが入場の際に着ていたガウンをプレゼント。これはカザフスタンの民族衣装“チャパン”で、ゴロフキンによれば「最も尊敬した人に贈るもの」だという。ゴロフキン陣営が「彼が対戦相手にプレゼントしたのは見たことがない」と言うのだから、村田への敬意が窺える。

 

 村田はリング上で胸の内を語った。

「2年4カ月も試合をしていなくて、ゴロフキン選手と試合できるなんて、こんなラッキーな男はいない。デビューから追いかけてきたチャンピオンと試合をできたことをうれしく思います」

 

 ミドル級最強を目指し、辿り着いたビッグマッチ。試合後の記者会見では、開催に尽力した帝拳の本田明彦会長から会場入りの際に「いい意味で楽しんでこい」と送り出されたことを明かし、「“楽しんでいいんだ”と思えて、すごくうれしかった。(試合は)楽しくなかったですけどね」と苦笑し、会見場を和ませた。

 

 ミドル級の頂点はこれほど高いのかと感じさせられた時間だった。「私のキャリアの中でも最も印象に残る日だった」とゴロフキン。リング上で死闘を繰り広げられた26分11秒は、村田にとっても、それを見届けた者にとっても特別な時間だったことは間違いないだろう。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

 無傷の王者はスーパーフライへ

 

 2度目の防衛戦に臨んだ中谷は、世界初挑戦の山内を圧倒した。離れて良し、詰めて良し。その冷静な立ち回りは、さながら闘牛士のようだった。

 

 昨年末に開催予定だった防衛戦はオミクロン株の流行により流れてしまった。4カ月後に仕切り直しとなり、対戦相手はクリスチャン・ゴンサレス(メキシコ)から山内に変更となった。

 

 2日前に行われた調印式後の記者会見で177ラウンドのスパーリングを消化したことを明かし「充実したいいトレーニングができた。離れて良し、くっついても良しの対応力を引き出せる練習をしてきた」と語っていた。

 

 序盤は距離を詰め、左を当てていく。長いリーチから繰り出すストレート。2ラウンドには連打を繰り出し、山内を追い込んだ。組み際にもパンチを当てるなど終始、相手を翻弄した。

 

 タフな山内に手を焼いたのか、4ラウンドに少しペースが落ちたが、それも織り込み済みだったようだ。ボディに活路を見出そうとする挑戦者にも「打ってくるのは分かっていたから中にいったり、外にいったりした」と冷静に対応した。

 

 ついたり、離れたりのボクシングで相手に的を絞らせない。ルディ・エルナンデストレーナーの指示に従い、距離を使い分けて戦った。ダメージを与え続け、9ラウンドに仕留めた。連打でぐらついた相手にラッシュを仕掛けると、ダウンを待たずしてレフェリーが2人の間に割って入った。

 

 8ラウンド2分20秒での決着は時間がかかったようにも映ったが、「長いラウンドで戦えたのは収穫」と語る。7ラウンドまでのジャッジペーパーを見ると、ジャッジ3人がフルマークで中谷を支持する圧勝ぶり。時折、山内のボディを受ける場面もあったが、中谷は「効いたパンチはなかった」と涼しい顔で口にした。その顔に傷は見当たらない。

 

「前戦でインパクトのある勝ちをしたので、今回も期待されるのは分かっていた」

 KO防衛でプロデビューから連勝を23に伸ばした。24歳の未来には多くの期待が集まるが、試合後には減量苦からスーパーフライ級への階級変更を示唆した。

 

「タレント揃いの階級で気が引き締まる。さらに成長できる機会」。気になる相手にWBAスーパー王者のファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)の名を挙げた。この階級には、4階級制覇王者で、現WBO王者の井岡一翔(志成)もいる。そこに中谷が加われば、スーパーフライ級戦線の激化が予想される。

 

(文/杉浦泰介、写真/古澤航)