16日、総合格闘技イベント『RIZIN TRIGGER 3rd』が東京・武蔵野の森総合スポーツプラザで行われた。この日がMMAデビューとなったレスリング・グレコローマンスタイル71kgアジア選手権王者の泉武志(FIGHTER'S FLOW)、大相撲元幕内力士・貴源治の貴賢神(フリー)はいずれもTKO負けを喫した。

 

「再生・回帰、発掘・育成、地域活性」を3大テーマに掲げるRIZIN TRIGGER。リングではなくケージでのファイトが特徴だ。第1回は兵庫県神戸市の神戸ワールド記念ホール、第2回は静岡県袋井市のエコパアリーナで開催された。ナンバーシリーズへのステップボード的な側面もある大会は、舞台を東京調布市に移し、3回目を迎えた。

 

 第2試合に登場したのは泉。オリンピックの舞台こそ立てなかったものの、2017年にアジア選手権を制したレスラーだ。MMA転向後、ケガやコロナ禍でデビューに時間がかかった。「再生」「育成」という意味で、TRIGGERのテーマに合ったファイターと言えよう。対戦相手のグラント・ボグダノフ(アメリカ)はMMA2連勝中で柔術の使い手だ。

 

「グラップラーじゃなくてストライカー」

 自らをこう分析する泉は、柔術を得意とする相手の寝技に付き合わず、スタンドで勝負することを選択した。それが勝つための手段だったともいえる。

 

 1ラウンドから距離を取りながらパンチを狙う。片足を掴まれ、そのままグラウンドに持ち込まれたが何度かエスケープ。寝技対策も積んでいたのだろう。2ラウンドはほぼグラウンドで防戦一方だったが、チョークを狙う相手に対し、一本を許さなかった。

 

 しかしパウンドを食らい、寝技を回避し続けていたため消耗は激しかった。3ラウンド、マットに叩きつけられると、最後はグラウンドでの肘で仕留められた。レフェリーが試合を止め、泉のMMAデビューは13分16秒で終わった。

 

「MMAでの強さを感じました。バックチョークの逃げ方がうまかった」とは、勝ったボグダノフのコメント。レスラーとしてではなくMMAファイターとして泉を認めたといったところだろうか。榊原信行CEOにデビュー戦の評価を求めると、こう返ってきた。

「本人にとってはほろ苦いデビューだったかもしれないが、片鱗は見せた試合だった。MMAファイターとしての進化が期待できると感じた。負けはしましたけど、すごく好印象でした」

 

 傷だらけの顔で臨んだ試合後の会見で、泉から発せられた言葉にネガティブなものはなかった。

「今は前を向いて、諦めずに今後もやっていきたい」

「ライト級戦線をかき回したい」

「今回は試練だと思って受けました。乗り越えることはできなかったが、強くなって彼にリベンジしたい」

 

 泥臭く、ガムシャラが彼の持ち味だ。華々しいデビューは飾れなかったが、“諦めない男”の挑戦はまだスタートしたばかりだ。

 

 第7試合の貴賢神は大相撲の幕内力士として十両優勝を果たすなど、番付を西前頭10枚目まで上げたホープだった。しかし大麻使用などで懲戒解雇処分を受け、相撲界を追われることになった。昨年12月に格闘家転身を表明。彼もまた「再生」と「育成」が当てはまるファイターである。元刑事で、40代から格闘家に転身した異色のキャリアを持つ関根“シュレック”秀樹(ボンサイブルテリア)と対戦した。

 

 プロレスラーとしても活躍するマルチファイターで48歳の関根に距離を取られ、試合を進められた。貴賢神は一発の重みはあるが、それを的確にヒットさせることはできなかった。2ラウンドに入ると関根にテイクダウンを奪われた。何度か立ち上がったものの、グラウンドの攻防は圧倒的に関根が優位だった。

 

 最後はヒザ蹴り、サッカーボールキックを見舞われ、パウンドを浴びるとレフェリーが割って入った。貴賢神のMMA初土俵は2ラウンド3分49秒TKO負け。黒星発進となった。「まだまだ足りないところだらけ」と完敗を認めた。格闘家転身発表から半年足らずでのデビュー。133kgの体重もまだ絞り切れていなかったが「不安だらけ。でも、やると決めたのは自分」と語った。

 

 試合前は「顔面の骨を折る」「頭を真っ赤な血で染める」と過激な発言を繰り広げた。

「盛り上げることも大事ですし、自分はそのつもりで言っていた。嘘で言っているわけではない。勝負事はやるかやられるか。自分は言ったことに後悔はない」

 

 対戦相手の関根は「すごい素質を感じた。スタンドで勝負して拳骨を食らわせてやろうと思ったら、逆に食らわされた。今回ディフェンスを強化していたが、あの大きさとリーチの長さで結構食らったな」と振り返った。そしてこうも言った。

「このまま彼が長所を伸ばしていけば、次は勝てない。今回は初手だったから老獪さで勝てた」

 

 泉と貴賢神。いずれも結果は完敗だった。この敗戦が彼らにとって、再生のTRIGGERとなることを期待したい。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

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FORZA SHIKOKU 泉武志(第1回第2回第3回最終回 2015年9月掲載