バイエルン敗北が意味する独の国際競争力低下
かたや「FCハリウッド」と呼ばれたこともある世界的なビッグクラブ。かたや人口わずか5万人、日本で言うなら福岡県田川市とほぼ同程度の街を本拠地とするスモールクラブ。試合を迎えるにあたって、目利きの揃ったブックメーカーがこぞってバイエルンの圧倒的有利の賭け率を設定したのは当然のことだった。
だが、待っていたのは大番狂わせだった。
どんな強いチームといえども、1シーズンのうちに2度や3度、敗北を喫することはある。ただ、今回の敗北がバイエルン、はたまたブンデスリーガ関係者、もっというならドイツサッカー界全般に与えた衝撃は相当なものがあるはずだ。
ブンデスにおける彼らの敗北は、事故のようなものがほとんどだと言っていい。ホームで敗れたボルシアMG戦は主力の多くがコロナで不在、ボーフムに喫した歴史的敗北も、相手側に半世紀分の幸運が乗っかったようなものだった。
CLでの敗北はどうか。昨季苦杯を喫した相手はパリSG、3年前の相手はレアル・マドリード。こちらの負け方は、横綱同士の力相撲で負けたというべきもので、ファンとしては納得できる部分もあったはずだ。
今回の敗戦は違う。
アウェーでの第1戦。結果的にビリャレアルの1-0で終わったこの試合は、もう少し点差が開いていてもおかしくない内容だった。試合後、バイエルンのナーゲルスマン監督は「負けるべくして負けた」と認めたが、「同じ相手に2度ひどい試合はありえない」とも言い切った。これは、監督個人の思いというよりは、ドイツ人の思いといっても良かったかもしれない。
その思いは半分正しく、半分間違っていた。
ホームにビリャレアルを迎えたバイエルンが「ひどい試合」をしたとは思わない。第1戦に比べれば、相当に相手を追い詰めてはいた。だが、大会から姿を消すのは、人口5万人の街からやってきたローカルクラブではなかった。
なぜこの敗北がドイツサッカー全般にショックを与えると考えるのか。バイエルンの面々が、ドイツ代表の骨格そのものだから、である。
常識的に考えて、一つのチームが9連覇するようなリーグはちょっと歪である。だが、他国に比べれば明らかに異常なブンデスの実情がさほど問題視されなかったのは、バイエルンが高い国際競争力を維持していたから、だった。バイエルン勢を軸にしたドイツ代表が、四半世紀前の低迷期に比べれば安定した成績を残していたから、だった。
今回の敗北は、そうした前提を揺るがしかねない。
ビリャレアルには、バイエルン並みの攻撃に耐えた経験があった。バイエルンには、ビリャレアルほどの牙に相対した経験が不足していた。主導権を握っていれば相手が根負けしてくれるブンデスと違い、リーガ7位のスモールクラブは最後まで勝負を諦めなかった。
バイエルンは、言ってみればドイツ代表である。ドイツ代表は、レバンドフスキのいないバイエルンである。ブンデスの強度不足がバイエルンに影響を及ぼしたとするならば、ドイツ代表のW杯予選もまた、強度に欠ける相手ばかりだった。
ビリャレアルはいかにして強敵を倒したのか。W杯初戦でドイツとぶつかる日本人としては、ぜひウナイ・エメリ監督の話を聞いておきたいところだ。
<この原稿は22年4月14日付「スポーツニッポン」に掲載されています>