日本倒した“オマーン流”で独撃破を
全国大会の常連校と当たることが決まった。戦う前から、もう負けたような気分になってしまう。
強豪ではあるが、全国には行ったことのないチームとぶつかることになった。戦う前から負けたような気分、にはならなかった。
……な、感じだと思う。W杯組み合わせ抽選会を終えての日本国内の反応。絶望か、強がりか。もしくは強引な楽観論か。
わたしの率直な感想はといえば、「ちょっと面白いかも」といったところ。いや、ドイツは強いしスペインも強い。ベストな状態の彼らとガチでぶつかったとしたら、10回のうち2回か3回勝てれば上出来といったところだろう。
だが、いまのドイツは14年のドイツではないし、スペインも南アフリカでのスペインではない。実際、ドイツは予選で北マケドニアにホームで苦杯を喫し、スペインもスウェーデン、ギリシャ相手に勝ち点を落としている。
ギリシャは、北マケドニアは、日本よりも圧倒的に強いチームだろうか。
そういえば以前、試合会場に「歴史を忘れた国に未来はない」なる横断幕を出してくれた国があった。ならば、思い出そう。歴史、とまではいかないまでも、最終予選の経験を思い出そう。
なぜ日本は最終予選で大苦戦を強いられたか。初戦で敗れたからだった。
では、オマーンは日本よりも強かったのだろうか。
最終予選全体から結論づければ、彼らは明らかに日本より格下のチームだった。第1戦での彼らがスペシャルだったのだ。
では、なぜ第1戦での彼らはスペシャルだったのか。日本を上回る準備をしたから、だった。日本のスタイルを徹底的に分析し、本音の部分では警戒を怠っていた日本人のスキをついたから、だった。
オマーンが日本に対してやったことを、今度は日本がドイツに対してやればいい。そして、これはまったくの個人的な印象だが、日本とオマーンの間に存在した実力差に比べれば、ドイツと日本の間に存在する格差は、むしろ小さいといえるのではないか。
地力で劣るオマーンが日本を倒すためにやったのは、日本にはできないことをやることだった。つまり、日本は代表チームだったが、最終予選初戦に限ってのオマーンは、限りなくクラブチームだった。代表チームではなかなかできない細かい戦術を徹底させ、言ってみれば過ごした時間の長さで実力差を埋めた。
これは、日本のラグビーがW杯に臨むにあたってとったやり方でもある。カタールで日本がドイツに勝つ可能性を高めるためには、おそらくは最善の方策だろう。海外でプレーする選手の合流が難しければ、Jの選手を中心にやってもいい。
幸か不幸か、当事者のみならず、他の国からもE組はスペインとドイツで決まり、と見られているところがある。ドイツ関係者のコメントが、不思議なぐらいオマーン戦を前にしたわたしたちのそれと似通っているのも興味深い。いわば、心のこもらない警戒。
聞くところによると、日本がE組に入ることが決まった瞬間、アナウンサーが歓喜し、元代表選手が「出場をやめた方がいい」とのたまった国があるらしい。94年、その国はドイツ、スペインと同じ組に入り、世界を驚かせる大健闘を見せたのだが、歴史、忘れてませんか?
<この原稿は22年4月7日付「スポーツニッポン」に掲載されています>