20歳の佐々木朗希投手(千葉ロッテ)が、プロ野球界で28年ぶりとなる完全試合を達成した。

 ペナントレースで本気のプロ野球選手相手に、19奪三振をマークしたことは本当に素晴らしいというより驚き。確かにあの長身から繰り出されるスピードのある変化球と、160㎞超える速球を見ると、野球をやってない僕が見ても尋常ではないことがよく分かる。またまた日本から大選手が出てきたことにワクワクする。

 

 今回のパフォーマンスは、並外れたセンスもさることながら、真面目な彼がここまで地道なトレーニングを積んできたことが大きく影響している。そして見逃せないのが指導者に恵まれてきたことだ。中学生で腰痛に悩んでいた頃に、試合で使うことをあきらめて将来を取った大船渡第一中の鈴木賢太監督。甲子園をかけた地方予選決勝戦に、連投酷使を避けるべく登板を控えさせた大船渡高校の国保陽平監督。どちらも目先の結果を残そうとすると、この選択にはならなかったはず。後援会、学校、地域などからのプレッシャーがある中で、それを貫き通した監督の信念こそ、その後の佐々木投手を作ったことは間違いない。

 

 さらに、ロッテ入団後1年間は試合で登板させず、カラダづくりに専念させた球団の方針。こちらも周囲のノイズにもぶれず、将来の大器を丁寧に育てるという方針を貫いた。こうした環境があったからこそ、4月10日の快挙につながったのだろう。

 

 しっかりとしたビジョンを持って指導する。これが優れた指導者の条件であるが、もうひとつ難しいのがこうした判断を本人にいかに理解させるかだ。十代の少年にとって、目指していた大会をあきらめるという判断は相当につらいもの。選手経験、人生経験が少ない選手にとって長い目で考えるというのは簡単なことではない。それを強要するのではなく、しっかりと理解させ、納得してリハビリやトレーニングに向かわせることが必須となる。その難しい判断を少年に理解させるというのは、信頼関係はもちろん、信念と知識がなければできなかっただろう。その意味でも、鈴木監督と国保監督の功績は素晴らしいものがあり、ぜひ機会があればお話を聞いてみたいと思っている。

 

 青少年期の出会い

 

 私自身、中学生から始めたクロスカントリースキーで、全国を目指していた高校1年の時に腰痛を患った。目標であったインターハイを目前にしていただけに、藁にもすがる思いで、様々な医療機関を巡った。ご縁があり、海外経験も豊富な著名なスポーツドクターに診ていただけることになり、何か解決するのではないかと大いに期待したが、その際にいただいた言葉は「変形している骨は治らない。まずは炎症を抑えることに専念すること。後は君がこれを支えられる強靭な体幹を作れるかどうか。この後、スポーツをやりたいなら、毎日腹筋を数百回はやりなさい」というものだった。

 

 インターハイという希望は消え、先の長いアドバイスにすべてを投げ出したい衝動に駆られ、親に当たり散らしたのは恥ずかしい思い出だ。でも、その時に辛抱強くアドバイスしてくれたドクターや父親のおかげで、翌シーズンは選手に復帰、インターハイ、国体に出場し、そのまま大学でも競技を続けることができた。だからこそ、その後のトライアスロンにもつながり、世界で活躍することができたのは間違いない。あの時、その場しのぎの対処をしていたら、高校1年のインターハイで僕のスポーツ歴は止まっていたかもしれないし、少なくともプロアスリートにはなれなかっただろう。ドクターと父親には本当に感謝しかない。

 

 同列で話すのはおこがましいが、佐々木選手も僕も、青少年期に出会った指導者に恵まれ、その後につながった。もし違った指導者だったらと思うと、不思議な感覚でもある。

 

 今、この時も、全国で多くの青少年が大志を抱いて、汗を流しているだろう。その際にどんな指導者に出会い、どんな夢を見ているのか。10代で「長い目を持って」なんて言うのはなかなかできることではない。だからこそ指導者がきちんとしたビジョンを語り、その夢に寄り添ってあげられるかどうか。目先の結果、コーチ自身の成績にはつながらないかもしれない。でも、その原石が後々輝いてくれることに喜びを見出せるか。

 

 それには指導者教育も大切だが、社会や周囲が理解し、評価できるかどうかも重要だろう。メディアや専門家がもっと評論すべきだし、報道されるべきだ。素晴らしい結果には、長いアプローチがあることを掘り起こして欲しい。

 こうした機運が、全国に散らばっている原石を、一つでも多く輝かせることになることを真に願っている。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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